あの頃の未来に僕らは立っているのかなぁ〜『げいさい』(会田誠)

2020年度、新型コロナウィルス対策のため、大学は基本的にリモート講義となり、学園祭もリモートとなった。

カオスで熱量のある学園祭の雰囲気を回顧したいという気持ちもあり、会田誠の小説『げいさい』を一気に読んだ。

舞台は1980年代後半、バブル期に入り始めた頃の芸大である。

げいさい (文春e-book)

げいさい (文春e-book)

会田誠の自伝的な要素が相当にあると思うが、主人公は佐渡で芸大を目指す青年。

絵が上手いということで画家を志すが、芸大の受験にまつわるあれやこれやに巻き込まれ・・・そんな様子が実に生々しく描かれる。

芸術界のドロドロや、複雑な人間関係、理想と現実の矛盾など、読めば読むほどどんどんダウナーな気分になっていく。

会田誠は私よりも年上なのだが、その年になって、十代の頃の「恍惚と不安」や「自分は何者か」と言ったヒリヒリとするような感性を持ち続けてこの作品を書き上げたことに感動した。

この作品に書かれているような、激しく、傷だらけで、恥の多い「青春時代」を自分も送ってきたはずなのに、いまあの頃のことを書けと言われてもここまでは書けない。

それは、都合よく美化されたりとか、振り返ると自己実現していたことにしたいという正当化の心理が働いていたりとか、あまりに都合の悪いものは積極的に忘却の彼方に追いやったりとか、自分の場合にはそういうことなんだろうと思う。

だが、会田誠はこの作品で自分の裸の核ともいうべきものをさらけ出している。

そもそも芸術家・作家というのは、多かれ少なかれ自らを見せて世に問う職業だということではある。

だが、それにしても、だ。

あの頃のくらくらするようなカオスで熱量のある空気を存分にに味わうことができた。

そして思う。

あの頃の未来に僕自身は立っているのだろうかと。