ポピュリズムにとって感染症とは何か〜『白い病』(カレル・チャペック)

プラハに行った時、その美しく、伸び伸びとした空気の中で、この国がわずかここ数十年の間にナチスに蹂躙され、その後はソヴィエト連邦の強い支配下におかれ、1993年になってようやく今の国の形になったことを、改めて感慨深く感じざるを得なかった。

さて、そんなナチスが台頭し、チェコを蹂躙する前夜の不穏な時代に作家・戯曲家として活躍していたカレル・チャペック

ロボットの語源となった『ロボット』が代表作と言われるが、この『白い病』の方も、ウィズコロナの今の時代にまた別の意味を持つのではないか、と思い、読んでみることにした。

カミュの『ペスト』の方が別名「黒死病」と呼ばれるのに対しての、架空の病としての「白」である。

白い病 (岩波文庫)

白い病 (岩波文庫)

原因不明の白い病がパンデミックを起こし、人々は疑心暗鬼、相互不信となる。

そんな中、ある医師が特効薬を開発し、国を代表する医療機関にその利用を持ちかけるが、医師は利用のための条件を提示するというもの。

病は、経済界、政界のトップをも容赦なく襲う。

医師がそんな彼らに特効薬利用のの条件として突きつけるのは「平和」であり「軍縮」であるのだが、当然のことながら彼らは容易にには動かない。

民衆こそが、「正義」とそのための「戦争」を希求し、そんな政財界を強く支持しているからだ。


この戯曲を書いた時には、まさにドイツでヒットラーが台頭し、民衆にナチズムが強く支持されていた時期である。

人一倍繊細で、未来を予見していたカレル・チャペックは、当然のことながら、ナチズムが欧洲に広がる光景を予想していただろう。

それがこの作品には色濃く描かれている。

そして、正義を主張して強硬な姿勢を保つリーダーを民衆が熱狂的に支持する姿に、カレル・チェペックの諦観を見ることもできる。


日本でも「新しい生活様式」なるものを提案した人達を支持し、他者にまで強要しようとする動きがある。

リスクに対する許容度がゼロに近づけば近づくほど、他者に不寛容になり、理想は常軌を逸し、最後は暴力の発露となって、人の<生>を虐げる。

20世紀の全体主義を我々はあれほど反省して総括したにもかかわらず、「感染症対策」の名の下に、他人が人間らしく生きようとする権利をあっけなく侵害する動きが出ている現況下、もっと読まれるべき作品。