新型コロナウィルスが流行った結果、音楽ライブの開催のハードルはとても高くなってしまった。
そんな中、ライブを配信で行うところが増えている。
だが、残念ながら、配信の映像や音のクオリティは十分とは言えず、また臨場感も現場に比べると物足りないどころか、別物と言わずにはいられない。
今回、あの山下達郎が初めての映像配信を行う、しかも配信サービスを初めて行うMUSIC/SLASHの初コンテンツであるとあって、僕の好奇心は一気に引き寄せられた。
聴衆に高品質な音楽を届けることには人一倍厳しいことで知られる山下達郎がOKしたのだから、よっぽど良いのだろうと。
チケットの値段は4500円ということで決して安くはない。しかも、アーカイブなしである。
なぜアーカイブがないのかは、「ライブの一回性」を尊重してのことだと受け止めた。
要するにその時間にそこにいないと見られないということ。
開催の3日前にログインIDとともに、視聴テストを促すメールが届いた。
「ウチもちゃんと供給するから、そちらもちゃんとした環境で鑑賞してね」と。
僕は自宅でMacBook ProからHDMIで大型モニターに繋いで鑑賞することにした。
ちなみに、配信にはコピー防止対策がなされているので、HDCP対応のHDMIケーブルが必須。これ大事。
開演一時間前。
カウントダウンの時計が表示され、山下達郎の音楽のルーツになったような楽曲が流れ続ける。
そして、開演。
京都「拾得」のこじんまりとした木造家屋でのアコースティクライブ。
手を伸ばせばそこに存在を感じられそうな生々しい息づかい。
居心地のいい空間がまさに部屋の中に現れた感じ。
マーヴィン・ゲイの「What’s Going on」のカバーが素晴らしい。
争いごとばかりの2020年の世界にこのメッセージを届けた意図を感じ取らずにはいられなかった。
アコースティックライブが終わると、幕間とばかりに綾小路翔のコメント動画が流れ、舞台は2017年の氣志團万博へ。
まるで自分の家にいながら、広大な野外ライブフェスのステージ前にワープしたかのような感覚。
台風が近づいて雨の降る中、ライブが始まる。
木更津のヤンキーに敬意を表したのかどうかはわからないが、「ハイティーン・ブギ」で幕を開け、「硝子の少年」「アトムの子」などのアッパーチューンで攻める攻める。
コーラスガールズの中に竹内まりやがいるのが見え胸が高鳴る。
そしてクライマックの「恋のブギウギトレイン」へ。
雨の降る中、長大な間奏パートではギターを持って花道を歩きサブステージに向かう達郎。
陳腐な言葉だが、エモーショナルの極み。
これぞライブの醍醐味。
ここでフィナーレを迎えるかと思いきや、しっとりとした「さよなら夏の日」へ。
「雨に濡れながら僕らは大人になっていくよ」という歌詞がこれ以上はまることはないのではというシチュエーション。
自宅にいて配信を見ていることを忘れるような瞬間だった。
これで予定配信時刻を迎え、ああ終わりかなと思っていると、なんと別の映像が始まる。
アンコールか!
今から30年以上前の映像で、ハーモニーが美しい「SO MUCH IN LOVE」、そして竹内まりやカバーの「プラスティック・ラブ」。
完璧主義的なパフォーマンスの中にも、若さゆえの荒削りさが垣間見えたりして新鮮だった。
ということで、山下達郎ならではの圧巻の配信ライブ。
演奏のクオリティは当然だが、3本のライブを新旧織り交ぜる構成も良し、クリアでダイナミックレンジの広い音も良し、一度も乱れることのない映像も良し。たとえて言えば、BD並の品質で終始安定していた。
また、「その場でしか観られない」というのもライブ感を加速して、高揚しっぱなしの2時間だった。
これで4500円は高くないとは思えたし、MUSIC/SLASHの提供するライブはまた見てみようと思った。
ステイホーム時代のライブファンにとって、考えうる最高の擬似体験かもしれない。
MUSIC/SLASHは藤井風の日本武道館ワンマンの配信の予定している。
ライブ感の溢れる音楽性で勝負する藤井風とこの高品質なMUSIC/SLASHの配信は相性はいいだろう。
できれば生で観たいが、チケットが取れなかった暁にはMUSIC/SLASHで楽しみたい。