川崎重工の経営統合報道とは何だったのか

川崎重工で役員の解任劇。原因は、三井造船との経営統合をめぐる社内の意見の対立。

経営統合の交渉はデリケートだし、多くの場合、社内でも賛否が分かれるもの。経済合理性だけではない政治の世界。

今回、秘密裡に交渉しているものを、日経がスクープした。いや、正確には、川崎重工の統合推進派が日経にリークしたのだろう。既成事実化するために。あるいは市場の反応を観測するために。日経は「スクープをさせられた」、つまり、利用されたのだ。ここには報道の中立などない。スクープを求めるメディアの渇望は、経営者に見透かされている。

しかしながら、社内をまとめ切れていない段階で、このようなリークは往々にして裏目に出る。株式市場は統合を嫌気して、川崎重工の株価を押し下げた。これで反対派は勢い付いたと想像できる。リークした統合推進派の読みは外れたわけだ。そんな人たちに踊らされて記事を書いた日経はまるでピエロだ。

今回も、日経のリークは、世紀の大誤報「三菱重工日立製作所の経営統合」と同じように、負の自己実現の効果を持った。つまり、「統合交渉を報道することによって、破談になる」ということだ。日経はこの効果に気付いているのだろうか。

さらに言えば、このような「未公開重要情報」を入手して広めることは、法令違反ではないかと思う。状況によっては、インサイダー取引の片棒を担ぐ行為である。


今朝の日経にはこんな記事もあった。

川重の情報開示姿勢に疑問の声も


今回、川崎重工は統合交渉について「(交渉)事実はない」との4月22日付コメントを「事実はある」と訂正した。東証は過去の発表内容を修正する事情が生じれば速やかに訂正するよう要請している。
川重の情報開示姿勢に疑問の声も :日本経済新聞

日経が事態を正しく理解していないのか、理解していてとぼけているのかは、外からは分からない。だが、「情報開示」とはすべてを公開することを意味しない。デリケートな統合交渉の只中であれば、それを逐一オープンにすることは、かえって交渉を妨げ、結果的に交渉を失敗に終わらせかねない。だから、「統合交渉中である」ことを馬鹿正直に開示する必要まではない。

日経も、そろそろ自らのスクープの「意味」を考えるべきときが来ているように思う。