ベタベタに俗っぽい世界―島田雅彦『傾国子女』

こういう俗っぽい「女の一生」ものは流行なんだろうか。

白草千春が13歳のときに、多額の借金を残して父が失踪。父の知人・小児科医である花岡の家に移り住むも、彼は少女偏愛者だった――。養父に、ヤクザに、京都の黒幕に身を捧げ、「好色」の業を背負って、ジェットコースターさながらの激しい浮き沈み人生をおくった千春に、ハッピーエンドは訪れるのか。

島田雅彦の最新作の『傾国子女』は、『嫌われ松子の一生』や『殺人鬼フジコの衝動』と同じカテゴリに入れたくなる作品。美しいがゆえに、周囲の男を巻き込んでしまう白草千春の辿る数奇な運命。

かつての観念的なスタイルはだいぶ読みやすくなり、悪く言えば通俗的になった。登場する人物も、ヤクザだの、政財界のフィクサーだの、首相の息子だの、歌舞伎役者の御曹司だの、どう見てもTVのバラエティー番組か、三文週刊誌の世界。

著者は、この主人公の住む世界のいやらしさを強調するために、偽悪的に趣味の悪い世界を描いているのだろうが、後半にいくにつれてうんざりとしてくる。

「ジェットコースター小説」ではあるが、最終的には不幸になることが運命付けられている、いや、読者がそれを望んでいると著者が信じて書いている。が、どうしようもなく俗っぽい。

ところで、イラストのヤマザキマリ。彼女のテイストは、小説の俗っぽさを昇華しない。登場人物のキャラクターを絵にしているが、どの男性も誰かに似ている。三島由紀夫谷崎潤一郎芥川龍之介太宰治など。ある種のイラストは、小説世界の世界観をぐっと読者寄りにするが、本書の場合、そこまでの効果があるかどうかは不明。

新境地を切り開く作品という評判だったが、かなりベタベタで手垢のついた感のある内容だった。

傾国子女

傾国子女