史上最萌アリス―『ふしぎの国のアリス』

史上最萌と評判の角川つばさ文庫版『ふしぎの国のアリス』を読んだ。ルイス・キャロルが少女向けに紡いだ物語という成り立ちである以上、アリス自体が萌えであるわけだが、そのアリスがokama氏のイラストを得て、過去最高クラスの萌えアリスになった。

肝心の内容の方も、21世紀の翻訳に相応しい洗練されたものになっている。たとえば、ルイス・キャロルが多用している英語でのかけことばは、代表的な従来訳では以下の通り。

「ネコはコウモリを食べるのかな。ネコはコウモリを食べるのかな」
 そして、ときどき言い間違えて、
「コウモリはネコを食べるのかな」

何をどう言い間違えたのかよく分からない。英語では"cat"と"bat"の言い間違えなのだが、日本語にはうまく置き換えられない。これは仕方ないのだが、個人的には「ネコをコウモリが食べるのかな」という方がまだ良いのではないかと思う。

さて、河合祥一郎の新訳ではどうか。

「ネコってコウモリ食べる? ネコ…ウモリ食べる?」
 そのうち、こんなふうになっていきました。
「ネ…コウモリって食べる? ねぇ、コウモリってネコ食べる?」

なるほど。これはなかなか上手い。他の箇所も、韻を踏んだ英詩が同じような韻を踏んだ日本語になっていたりと、原作の魅力を伝えているように思う。

okamaのイラストについては多くを語るまい。知っている人は知っているだろうし、好きな人は好きだろうから。

「児童文学」とか「ジュブナイル」というカテゴリ名にはなんだか古い感じがしてしまうのだが、角川つばさ文庫は「ライトノベル」に大幅に接近することで、このカテゴリに新たな息吹を送り込もうとしているように読める。『涼宮ハルヒの憂鬱』もこのシリーズで刊行しているし、『時をかける少女』に至っては表紙がいとうのいぢだ。

古典を古典という枠に押し込めておかず、現代の意匠に引きつけて読者を広げることは否定されるべきではない。思うに小田島雄志のシェークスピアだってそうではないか。そこから見えてくる今日的な観点もあるだろう。