どこにも行けない〜シギサワカヤ『九月病(上)』

十月だけど『九月病』。僕が病を患っているとすれば、それはきっとシギサワカヤ依存症なんだろう。

九月病 上 (ジェッツコミックス)

九月病 上 (ジェッツコミックス)

初期長編、といっても、同人誌で継続して描かれていた話を上下二冊にまとめたもの。ところどころ時系列がわからなくなる。もちろんある程度は味わいなのだが、巻末の「初出一覧」を参照しながら各章の関係性を把握してから読むべし。それが、理屈っぽいシギサワワールドに付き合うシギサワファンの嗜みというものだ!

とまあどうでもいい理屈はこの辺で。内容は、実の兄と妹の禁断の…という設定。このままでは、兄はどこにも行けない。出口なし。妹と二人で世界を敵に回したまま最後は破滅するしかない。

しかし、そんな中、兄の職場の同僚として登場する海老沢碧。いわずと知れた「海老沢三姉妹」の長女。海老沢さん。そして、この作品の読者からは「兄貴」と呼ばれるほどのオトコマエ。その分エロ度は低め。というか、例によってエロいのは表紙だけだ。この作品では、妹を差し置いて「兄貴」の格好よさにしびれざるを得ない。彼女は天使なのか。マリアなのか。この閉塞した世界から救い出してくれるのか。というあたりで、下巻に続く。

さて、作画の方は、同人時代ということでまだまだ未整理な部分もあるが、シギサワワールドの本質にある文学性みたいなものは、この時代から燦然と輝いている。いや、むしろダークで不穏な気配を放っている。冒頭のモノローグなど、マンガではなく文章として単独で読ませる。

ただその場の快楽を分かち合うだけ
本当は好きなのではなく・・・
必要なだけ
生きてゆくために
でもそれが好きという感情でなくて
他の何だというのかわたしには解らない