僕らはなぜ物語を欲するのか〜シギサワカヤ『九月病(下)』

シギサワカヤの『九月秒(下)』を読了した。以下軽くネタバレ。

九月病 下 (ジェッツコミックス)

九月病 下 (ジェッツコミックス)

近親相姦で共依存な兄妹は、閉鎖空間から脱出できるのか―ということなのだが、結局のところ、人が変われるかどうかは、自分がその可能性を信じるかどうかにかかっているということだと思う。

この点、海老沢碧の持つパワーはやはり「兄貴」と呼ばざるを得ないし、こんな女性が本当に存在するのかと訝しくさえ思える。まあいい。これが「物語の力」だ。僕らは「物語」を求めている。たとえシギサワカヤのような心理的なリアリティを描くような作家の作品であっても。

だって、マンガの中の登場人物が現実と同じようにリアルだったら、僕らはそんなものを読むだろうか。ずるくて、ちょっと狂っていて、よそよそしい世界の中に存在する意義が不確かで。揺れていて。それは僕の隣人、あるいは、僕そのものではないのか。

僕らはそういうものから離れたくてマンガを読むのではないか。僕らが物語を欲する理由がそこにあるとすると、『九月病』は見事にその期待に応えてくれていると思う。書き下ろしの最終章は、ストーリーもよいし、絵柄も流麗になっていた。この作品は、上巻の冒頭のあたりがややとっつきにくくて読む人を選ぶけれども、これはこれで傑作だと思う。

とりあえず、これで入手可能なシギサワカヤ作品は完全制覇。しかし、今週末に発売予定の『楽園 Le Paradis』の第4号、それから来月の新刊『誰にもいえない』と、まだまだ楽しみは続く。新刊発売のときに秋葉原でサイン会とかないかな…

誰にも言えない

誰にも言えない