志田未来は良かった〜『借りぐらしのアリエッティ』

スタジオジブリの新作『借りぐらしのアリエッティ』を観た。以下、軽くネタバレ。

公式サイト:借りぐらしのアリエッティ 公式サイト

イギリスの児童文学者メアリー・ノートンファンタジー小説『床下の小人たち』(原題:The Borrowers)が原作。タイトル通り、人間に見つからないように家の床下で「借りぐらし」をする小人たちのお話。

映画では現代の日本の話に翻案されていて、多摩地区にある民家周辺が舞台。時間も数日間ということで、良く言えばこじんまりとまとまっているとも言えるし、悪く言えば退屈とも言える。宮崎駿監督作品のような大風呂敷を広げる感じも、人智を超えた存在を描く感じも皆無。米林宏昌の初監督作品ということだったが、監督としての力量は評価しかねる、といったところ。

主人公のアリエッティの少女性はジブリヒロインの王道。凛とした美しさと芯に秘めた強さ、そして土壇場での行動力。まち針の剣を腰に刺したままワンピースでロープを登る姿に、ジブリらしい躍動感を感じることができる。ただ、観客の想像を超えて飛び回るようなカメラワークは少なく、また、少女の健康的な色気を匂わせる場面もなかった。これが21世紀のジブリなのだろうか。作画的には、流麗だがインパクト不足と言わざるを得ない。

声優では、アリエッティ役の志田未来が秀逸で、声優初挑戦とは思えない素晴らしさ。もともと演技力には定評があるが、声だけでも観客を感動させる芝居ができることを示した。他は、父親役の三浦友和がさすがの上手さ。個性を抑えた演技で、映像と合わせても違和感がない役作りだった。

主題歌にフランス出身のハープ奏者、セシル・コルベルを起用したのは、ジブリとしては新しい試み。新鮮ではあったが、全体的に世界観との整合性には疑問が残った。舞台を日本にしているのに、なぜ音楽が中世ヨーロッパ風なのか。主題歌以外の音楽も聴かせどころが少なく、「久石譲だったらこのシーンに合わせてどんな旋律を書いただろうか」と考えてしまう場面も多かった。

総じて、ジブリ映画の王道の上に置かれた作品ではあるが、全体を通じて盛り上がりに欠けているため、過去の傑作には並び得ない。ただ、アリエッティというキャラクターが、志田未来の声を得て活き活きと動いていたことは評価できる。逆に言えば、それくらいしか収穫がなかったと感じてしまった。