異常の定義は難しい〜『ホテル・アイリス』

博士の愛した数式』で一躍メジャーとなった小川洋子の作品。

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)

薬指の標本』とも通じるような閉塞感、孤独、陶酔等を描いた作品。自称・翻訳家の初老の男性と、ホテル・アイリスに住まう17歳の少女との関係は、一般的には異常だ。だが、その異常な関係を通じて、二人は自分の持つ孤独を埋め合わせている。歪んでいて、奇妙ではあるが、心惹かれあっているのだ。

こう考えていくと何が異常なのかという定義は難しい。ミシェル・フーコーが言うように「異常」という概念自体が作られたものであり、本来は「正常」と「異常」の境界など明確ではないのだろう。