ラフマニノフの音楽のように甘い〜映画『東京タワー』

上映最終日前日の今日、『東京タワー』をようやく観た。

なんとも甘い映画。べたべたするくらい甘い。演奏会の場面でラフマニノフのピアノコンチェルトが使われていたが、まさにラフマニノフの音楽のように甘い*1

黒木瞳の演技は『阿修羅のごとく』のときよりもメリハリがあり、特に感情を抑えた場面では切なさを感じさせた。が、ロマンティックな場面でのせりふまわしは、聞いていてくすぐったくなるほど甘かった。電話越しに「マーラーの9番ね」とかちょっとやめてほしい台詞だった。マーラーの9番は「死」と正面から向かい合った荘厳な曲だと思っているので、小洒落た雰囲気を演出するための小道具として安易に使われるのに抵抗がある*2というのもあるのだけれど*3

続いて、寺島しのぶ。ギリギリの専業主婦という設定ゆえか、やや過剰表現かと感じられるほどの演技を見せる。でもエプロン着けたまま不倫相手の大学生のバイト先に駆けつけるなんてあるか?など必要以上に糠みそ臭い演出が目立った。彼女の本来持っている演技力を、戯画的な演出が殺している気がした。が、フラメンコを踊る場面は圧巻*4。女優対決の軍配はこちらに上げたいと思う*5。背骨はこの映画では一瞬しか見えず。背骨フェチは『ヴァイブレ−タ』を観て堪能するべし。

あと、透の大学の講義に耕二がもぐりに行く場面があるが、講義の内容は「ゲーデル不完全性定理」だった。理系だということになっていたが、これは数学というよりも、むしろ論理学とか哲学の領域だろ、と思った。

写真は喜美子の乗る車*6。結局、原作のフィアットパンダからシトロエンC3にかわっていた。左ハンドルでマニュアルのイメージだったのだけれど、右ハンドルのATになっていて原作の喜美子の持つかわいい雰囲気はダウン*7。浅野の車は、原作のベンツからレンジローバーにかわっていて、こっちの方は似つかわしいと思った。

*1:ラフマニノフを安易に使うと安っぽい映画になりやすい。『シャイン』は数少ない例外だと思う

*2:5番ならいくらでも使ってくれて結構、『ベニスに死す』になっちゃうけど

*3:エンドロールに指揮者のクレジットがなかったが、協力にキングレコードの名を発見したので、指揮者はレナード・バーンスタインだと思われる

*4:『アメリカンビューティー』の冒頭のチアガールの場面を思い出した。あそこまで彼女のフラメンコの踊りをクローズアップするなら、黒の背景に真紅の薔薇の花びらの吹雪を舞わせるCGを合成するくらいやってもよかったんじゃないか、と思ったりする

*5:いつの間にか寺島しのぶ贔屓になってしまっているのかもしれない

*6:背景に写っているのは、もちろん東京タワーではなくエッフェル塔

*7:かつてシトロエン乗りだったものとしては残念なのだが、最近のシトロエンのデザインは今ひとつになってしまったと思う