ニューヨークに行くとどうしてもミュージカルに行ってしまうのだけれど、トロントはオペラの方が充実している。
ということで、フォーシーズンズセンターで上演されているモーツァルトの「後宮からの誘拐」(カナディアンオペラカンパニー)を観に行ってきた。
開演前のロビーはドレッシーな大人の社交場という雰囲気が濃厚ながら、カジュアルな子供連れもいて、オペラが市民に根付いている印象。
劇場はモダンな作りだが、中に入ると圧倒的な雰囲気。
たまたま一つ空いていた最前席から鑑賞。
演目の「後宮からの誘拐」は、モーツァルトの5大オペラの一つとされ、当時ブームだったトルコ(=東洋/イスラム)のエキゾチズムのフレーバーをふんだんに取り入れながら、男女の愛、執着心、治世者の徳などを描いたストレートなエンタメ作品。
全体的に短めで、登場人物は類型的、人間関係もシンプル、アリアは派手で聴かせどころ満載と、分かりやすいことこの上ない。
今の言葉で言えば「ポップなオペラ」というべきか。
ドイツ語ということもあって、上演回数はモーツァルトの作品の中でも多い方だとか。
ちなみに、英語の字幕が舞台の上の方に流れるので、ストーリーを追えなくなったらそっちを見ればよくなっている。
クラシックでエキゾチックな要素は押さえつつも、演出や美術は現代的で洗練されていて、古臭くはなっていなかった。
異文化との共存や多様性の尊重が叫ばれる21世紀の風潮の中で、カナダの人たちの目に、このような「トルコの太守」がどのように映っているのか気にはなったけれども、そこはよく分からなかった。
ただ、コミカルなシーンでは笑いが起きていたので、オリエンタリズムに対する違和感みたいなものは存在はするんだろうなと感じた。これは東洋人の僕の考え過ぎかもしれないけれども。
歌と演技は全体的に素晴らしかったと思う。
コンスタンツェを演じたJane Archibaldのソプラノは美しかったけれども、個人的にはちょっとベテラン感が出すぎている気がしないでもなかった。
一方、ブロンデを演じたClaire de Sévignéは、立ち姿がシュッとしていて、初々しい表情が強く印象に残った。今後が楽しみ。
「後宮からの誘拐」は今週千秋楽を迎える公演だけれども、今回のタイミングで見ることができて良かった。
(キャスト)
Konstanze Jane Archibald*
Belmonte Mauro Peter
Blonde Claire de Sévigné
Pedrillo Owen McCausland
Osmin Goran Jurić
Bassa Selim Raphael Weinstock