「3776ライブにいかない理由があるとすれば」@TSUTAYA O-nest

優れたクリエーターは決して一か所に留まることはない。
知名度が上がってパブリック・イメージが固まろうとした瞬間、まるでそこから逃げるかのように、新しいフィールドへを切り拓いていく―

昨年リリースしたアルバム『3776を聴かない理由があるとすれば』が、アイドル楽曲大賞2015のアルバム部門で4位に入り、「3776」の認知は確実に上がったにもかかわらず、いや、だからこそ、石田彰というプロデューサーも、井出ちよのというアーティストも、満員のO-nestの観客を前に、3776の表現の可能性を見せつけたのだろう。

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ワンマンは、未来からライムマシンで来たアイドル(CV:井出ちよの)が、後世の歴史に残っている3776のワンマンを覗き見るところから始まる。

「洞窟探険」「登らない理由があるとすれば」「八合目にゃまだ早い」を披露した後、お茶を飲みに行ったちよのが薬で眠らされるという展開に。

そこで登場した「なりすまし3776」のTEAM MIIの3人が「私の世界遺産」を歌うと、ニセ3776がステージにいるのに我慢できなくなった未来のアイドルがたまらずステージに上り、そこでアイドルバトルに突入するという展開に。

未来のアイドルソングを歌うときには、「運転手―!」というちーちゃんのコールに呼ばれて石田彰がステージに上り、ギターを持って3776 extendedのスタイルでプレイ。

そして新曲「僕だけのハッピーエンド」を、タイトルコールもなしに初披露。

石田彰は「僕だけの」と言って、パブリックイメージを裏切ることを確信犯的に宣言しているけれども、幻想的なカッティングギターをバックに、独日の世界を歌って踊る井出ちよのカッコよさは、僕にとっても今日はこの曲がクライマックスになった。

そこで甘美な楽曲の世界に浸る間もなく、トッド・ラングレン的などんでん返しが待っていた。

打ち負かされたTEAM MIIのメンバーが、3776の卒業生のまりりんを「ボスキャラ」として召喚。荘厳な「まりりんのテーマ」に乗って登場した彼女がTEAM MIIに加わり、3776のヒット曲という紹介から「わかってよねぇ先生」を披露。もはや、帝国対共和国のフォース対決の領域へ。

ここで再び3776 extendedの編成で登場した井出ちよのと石田彰が、聴く者は誰も踊ってしまう「ハイカー」を披露し、ギターの伴奏をバックにバレエのようなダンスで踊る「ドローン~富士信仰~」とサンプリングを駆使した「即興曲(しりとりType)」をプレイ。

即興曲によるしりとりは、もはや天才同士の交流の領域で、どこまでどうコミュニケーションが噛み合っているのかいないのかも含めて、凡人の自分にはかたずを飲んで見守るくらいしかできなかった。

しりとりの最後で石田彰が「ろうそく」を伝えようとして、井出ちよのが「ローソン!」と言ってしりとりが終わるというのが、コミュニケーション不全をテーマとしていたことを象徴していた。

ここからライブは終盤戦か?と思ったところで、3776ファミリー全員がステージに集まって「序曲」を歌ってワンマンライブが終了。

アンコールの声援も大きかったが、客出しのQlairが流れ始めて本日のプログラムが終了したことが告げられると、観客は会場から外に出るしかなかった。やり場を失った熱量を抱えて。

ここまで型破りなのは、僕の知る限り、アイドルのライブには皆無で、終ったときの印象は演劇、それも小劇場の前衛演劇に近い。定評とかマンネリズムから最も遠いところにある。3776というプロジェクトが目指しているのも、おそらくはそういうところだろう。

終演後、僕はまず井出ちよのと交わした。

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僕:とても演劇的で、セリフとか凄く良かった。
ち:下手な棒読みだったね。うん、まだまだだよ。
僕:でも楽しかったんでまた来ます。富士宮にも行きたい。
ち:富士宮、20人くらいしかお客さんいないから、来たらびっくりするよ。

続いて、物販にいる石田彰の元へ。

僕:斬新な構成で良かったです。曲は、3776 extendの新曲が気に入りました。
石:そういう風に言ってくれる人がいるということは…3割くらいが賛、残りが否で、賛否両論という感じかな。

優れたクリエーターは、自分を過大評価しないし、観客に媚びることもない―

3776のワンマンを観終わって、僕が感じたのはそういうことで、心の底からこの「実験」に立ちあえて良かったと思った。

(セットリスト)

1 洞窟探険
2 登らない理由があるとすれば
3 八合目にゃまだ早い
4 私の世界遺産
5 僕だけのハッピーエンド
6 まりりんのテーマ
7 ハイカー
8 ドローン~富士信仰
9 即興曲(しりとりType)
10 序曲