本物だけが持つ味わい〜『チェンジリング』

チェンジリング』を観た。

クリント・イーストウッド監督がアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えた感動のミステリー・ドラマ。1920年代のロサンゼルスで実際に起きた事件を映画化。5ヶ月の失踪ののち保護され帰ってきた幼い息子が別人だったことから、本物の我が子を取り戻すため、捜査ミスを犯した警察の非道な圧力に屈することなく真実を追及していくシングルマザーの長きに渡る孤独な闘いを綴る。
 1928年、ロサンゼルス。シングルマザーのクリスティン・コリンズは、9歳の息子ウォルターを女手一つで育てる傍ら電話会社に勤め、せわしない日々を送っていた。そんな彼女はある日、休暇を返上してウォルターをひとり家に残したまま出勤する羽目に。やがて夕方、彼女が急いで帰宅すると、ウォルターは忽然と姿を消していた。警察に通報し、翌日から捜査が始まる一方、自らも懸命に息子の消息を探るクリスティン。しかし、有力な手掛かりが何一つ掴めず、非情で虚しい時間がただ過ぎていくばかり。それから5ヶ月後、ウォルターがイリノイ州で見つかったという朗報が入る。そして、ロス市警の大仰な演出によって報道陣も集まる中、再会の喜びを噛みしめながら列車で帰ってくる我が子を駅に出迎えるクリスティン。だが、列車から降りてきたのは、ウォルターとは別人の全く見知らぬ少年だった…。

以下軽くネタバレ。

140分間、まったく息をつかせない緻密なドラマ。腐敗した権力の横暴や理不尽な犯罪という苦境にあっても、希望を捨てずに戦う女性を描いている。これが実話だというのだから驚きだ。女性は強い、と改めて思わされる。これまでに観た映画の中では、巨大企業に立ち向かう『エリン・ブロコビッチ』に似ているが、あの映画のラストがいかにもハリウッド的ハッピーエンドであるのに対して、こちらの方はもっとリアリティを感じさせるものだ。それだからこそ深い味わいがある。視聴後の余韻は只者ではない。しばらく席を立てないくらいだ。

クリント・イーストウッドの監督としての才能は本当に凄いとしかいいようがない。もっぱらエンタテインメント性のみを追及する作品が多い中、自分が伝えたいメッセージ(一言で言えば「正義感」)を、ここまで適切な方法で映画で表現できるというのは、図抜けた才能だと思う。真面目過ぎるくらい真面目なのに、説教臭さや退屈さとは無縁。要するに「本物」だけが持つ味わい。

また、主人公は、派手さはないが芯の強さを秘めたシングルマザーなのだが、この役をアンジェリーナ・ジョリーが見事に演じた。途中のシーンでは相当悲惨なところもあるのだが、そういう汚れた場面ではきちんと汚れていた。この作品でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたのも納得。彼女のアクション映画にはあまり興味がわかないのだが(派手なルックスがアクション映えするのは認めるけれども)、不条理な世界に対して確固たる自分を持って生きる姿こそ、彼女の本領だと思う。『17歳のカルテ』以来、久しぶりに彼女の演技に心を射抜かれた。

なんとなく「大御所」感があって、最近のクリント・イーストウッドアンジェリーナ・ジョリーを敬遠してきたのだが、今回観てよかった。これは「見るべき」作品だ。そして、クリント・イーストウッドの監督作品をもうちょっと観てみようと思う。

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