音楽は魔法ではない―大森靖子「絶対少女が夢見るBBa'14ツアーファイナル『最終公演』」@恵比寿LIQUIDROOM

満杯になったLIQUIDROOMのフロア。熱気と期待感の渦の中、幕を開けないままに、「ミッドナイト清純異性交遊」のイントロとともに大森靖子が登場。歌いながらピンクサイリウムの海の観客席にダイブし、冒頭から破天荒な大森ワールドが展開される。この高揚感。

次の曲に行くかと思わせて、ステージ下手側のスクリーンでビデオ上映が始まる。本人の映像でavexからのメジャーデビューが発表される。続けて、蒼波純からのお祝いのビデオレターが!さらに、いずこねこ、緑川百々子、東佳苗(縷縷夢兎)、南波志帆アップアップガールズ(仮)の祝福で「大切なお知らせ」は終わる。

そして「絶対彼女」へ。幕が開くと、アルバム「絶対少女」のジャケットのような、ピンク色の女子ワールドのセット。蜷川実花の写真のようでもあり、七夕祭りのようでもあり。極彩色のセットがステージの照明で映える。

そして、音楽の方は、バンドサウンド全開。アレンジにも深く関与している直枝政広がギター、他には、レピッシュのtatsu(ベース)、ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉(キーボード、サックス)と豪華メンバー。久下恵生(ドラム)は同級生のお父さん、畠山健嗣(ギター)は同い年と紹介された。大森靖子ワールドを壊すことなく表現領域を拡大したバンマスの直枝政広の力量は確かで、tatsuの「スローハンド」なしっとりとしたベースプレイも思わず視線が釘づけになるレベル、奥野真哉のキーボードとサックスは大森靖子の音楽に華麗な花を添えた。

大森靖子の音楽の原点は、ギターの弾き語りで、ピアニッシモからフォルテッシモまで振幅の大きな世界を表現するのだが、このバンドサウンドでも表現が縦横無尽で、大森靖子との息の合い方が只者ではないレベル。

ときにギター弾き語り、ときにバンドサウンド、ときにドラム&ギターと、編成をも曲想に合わせて自在に操りながら、唯一無二の大森靖子ワールドが繰り広げられる。

MCでは「メジャーデビューのことを今日まで黙っていないといけなかったのに、twitterでやらかしてしまって、すごく怒られた」というエピソードを披露。彼女らしい。

パフォーマンスの途中、感極まったような場面で、彼女は、セットとして天井からつりさげられているリボンで自らの首を絞めて、ぶら下がるようなポーズを取った。少なくと二度。そのたびに「タナトス」と僕は心の中で呟いた。

途中、衣装替えを経て登場した彼女は、今度はピアノの弾き語りを披露。もともとはピアノを弾いていたこともあるが、ギターの弦を、ピアノの鍵盤に変えても、大森靖子の音楽はそのままだ。全く型にはまらないし、どこまでも優しく、どこまでも怒り満ち、どこまでも破壊的で、どこまでも温かい。

青い部屋」のこの箇所では、いつものように是枝監督の「誰も知らない」の映像を思い出し、そして、いつも以上に心を震わされて、涙が止まらなくなった。

子供が子供を育て 子供が子供を殺め
子供が子供と子を作る 子供だけの青い部屋
大森靖子青い部屋』)

今日のハイライトは、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」。呪文のように「音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、音楽は魔法ではない、でも音楽は…」と言って音を鳴らした瞬間。

そう。音楽は魔法ではない。

ほぼ音楽だけが人生になっている大森靖子が言うのだから説得力がある。

音楽は魔法ではない。

音楽を魔法とか言ってしまう人を僕は信じない。

では、音楽は…何なんだろう?

それが分からないから音楽を作り、聴いているのだと思う。答えは、ただ音楽の中にしか存在しない。

今夜、ここに大森靖子の不器用さ、誠実さを僕は見た。そして、そこに僕は共感した。彼女がavexに所属して、いまのような音楽を続けていけるのかどうかは、よく分からない。想像しにくい。それはファン以上に彼女自身も気にかけているだろうと思う。

だが、いまままでのようなインディーズレーベルで、ほとんど個人で運営しているような態勢ではとても追いつかないくらいに、彼女の音楽やメッセージに共感している人が増えている。今回のメジャー所属によって、より多くの人に大森靖子の音楽が届けられるようになれば、もっと多くの人が救われるだろうし、何よりもその事実自身が彼女を救うだろう。

メジャー所属には賛否両論あるだろうが、僕は希望をもってこの一歩を祝福したい。だって、こんなに凄いライブを見せてくれる彼女は、環境が変わったとしても、自分自身を抑圧することはないと思うから。

大森靖子の将来に期待! 僕にとってはそんな一夜だった。そして、たくさんの人のそんな気持ちが渦を巻くような恵比寿の夜だった。

(セットリスト)

01. ミッドナイト清純異性交遊
02. 絶対彼女
03. あまい
04. Over The Party
05. エンドレスダンス
06. あたし天使の堪忍袋
07. 展覧会の絵
08. hayatochiri
09. PS
10. 魔法が使えないなら死にたい
11. 呪いは水色
12. 婦rick裸にて
13. あれそれ
14. さようなら
15. 愛のさざなみ
16. 高円寺
17. キラキラ
18. 青い部屋
19. KITTY'S BLUES
20. パーティードレス
21. 少女3号
22. 君と映画
23. 新宿
24. 音楽を捨てよ、そして音楽へ
<アンコール>
25. 最終公演
26. デートはやめよう
<ダブルアンコール>
27. ハンドメイドホーム