無駄なものがまるでない〜志村貴子『かわいい悪魔』

志村貴子の作品集『かわいい悪魔』が出た。

志村貴子作品集 かわいい悪魔 (Fx COMICS)

志村貴子作品集 かわいい悪魔 (Fx COMICS)

2004年以降各誌に掲載された短編を集めて、書き下ろし作品を加えたもの。あとがきにもあるように「ストックがなさすぎてなんかもうムリヤリかきあつめてもらって」というが、ムリヤリあつめたわりにすごい統一感がある。しかし「ジャンプSQ」でも描いていたのか。見逃していた。わずか去年の話だけど。

この作品集の目玉は表題作の『かわいい悪魔』。小学生の男の子のところに自称"魔女"のお姉さんが現れるお話。もちろんお約束として、少年から見た年上女性の謎めいた魅力が描かれるところから始まるのだが、それにとどまらない。彼の家族や友人との織り成す「人間の世界」がきちんと動いていく。少年と父親の関係とか、父親と母親の関係とか。複雑な家族関係をほのめかしながらも、物語が動く中で、それが良い方向に変わる可能性を示している。まさに志村貴子の世界。長いこと未完だったのだが、最終話となる「#5」を書き下ろすことで、完結させている。

表紙絵もおしゃれでよい。『青い花』の表紙のはかない水彩画調とはまた違うが、繊細で、優しく、そして暖かい志村ワールドを象徴している。この人の作風は、絵も台詞も、冗長なものを排除していて、下世話なところがまるでないのだが、この表紙も同じ。無駄なものがまるでない。削ぎ落とし過ぎていてあっさりしているという意見も聞くけれども、きちんと「行間」を読むべきだし、それを味わうべきだ。それが志村貴子作品の正しい鑑賞方法だと思う。

そういえば『放浪息子』もノイタミナ枠で来年アニメ化予定。監督は『青い花』のカサヰケンイチではなくあおきえいになるということで、若干不安もあるが、『青い花』同様、原作世界を大事にしたアニメにしてほしい。いずれにしても、ファンにとっては楽しみ。