昨年34歳の若さでこの世を去った伊藤計劃のデビュー作『虐殺器官』を読んだ。これは凄い作品だ。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
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一応SFというジャンルに分類されるが、優れたSF作品がそうであるように、これは狭いカテゴリにとどまるものではない。また、タイトルから連想されるようなホラーでもスプラッタでもない。本質はどこまでも内省的な文学だ。
例として一箇所だけ引用する。
生き延びたものは常に、想像することしか許されていない。よほどのナルシストでもなければ、そんな手前勝手な想像ごときを真実とすりかえることはできはしまい。
死者は僕らを支配する。その経験不可能性によって。
(『虐殺器官』ハヤカワ文庫版、p.335)
世界に対する鋭い問題意識を持ちながら、個人の生/死を徹底的に掘り下げる文章。全体のプロットもとてもしっかりとしていて、奇をてらったところがない。たとえば、このままハリウッド映画になったとしても通用しそうなストーリー(ただし、このアメリカ批判がアメリカ人にウケるかというのはまた別問題だけれども)。
気の利いた引用も多様。カフカ、ウィトゲンシュタイン、モンティ・パイソン、イニシャルDなどなど。分かる人にしかわからなくていいという態度が、格好いい。
小松左京賞の最終候補になりながら受賞を逃したというのは信じられないけれども、小松左京にこの作品の先進性が理解できるとは思えないので、まあ仕方ないかもしれない。
総じて、もっと早く読んでおきたかったと後悔するくらいの傑作。彼の作品は全部読もうと思う。