ダイエー問題

産業再生機構による支援を拒否してきたダイエーが、一転して機構の活用を検討していると報じられた。この「活用」とは、ダイエーが何らかのイニシアティブをもって機構を「使う」ものではなく、産業再生機構の管理下に置かれるという意味である。そこで抜本的な再生を目指すということは、現在の経営陣をクビにして、不採算店舗・不採算事業を縮小することを意味する。球団の売却ももちろん重要な選択肢の一つになる。そうである以上、ダイエーの現経営陣がギリギリのところで抵抗を見せているのはある意味で当然ともいえる。

が、この一見「迷走」のように見える事態の本質は単なる茶番劇であり、最終場面でダイエーがしぶしぶ産業再生機構の支援を受けるというエンディングが用意されていると推測する。

まず、産業再生機構側には、自らの存在意義を示すために「超目玉案件」を手がけたいという強い動機があり、有利子負債が1兆数千億円とかのカネボウを大きく上回るダイエーの再生案件を逃がしたくない。機構が、ダイエーに回答期限を設けたり、資産査定の作業を打ち切ってチームを解体すると表明しても、それはあくまで脅し目的のポーズであり、交渉を行う上でのカードに過ぎない。機構はダイエーをノドから手が出るほど欲しがっている。

次に、メインバンク3行(UFJ銀行三井住友銀行みずほコーポレート銀行)は、ここまでダイエーの拡大路線を放置してきた責任論は措くとしても、現時点で彼らにはダイエーを再建する意欲も能力もない。ただ単に「不良債権を減らす(もしくは貸倒引当金を減らす)」という短視眼的な経済合理性に突き動かされているだけである。かつてのダイエーは特定のメインバンクを作らないことで複数行に融資条件を競わせてきたわけだが、この策に見事にはまってしまった3行は、現在はいずれもダイエーに関する関与を減らすことを望んでいる。いくらかの債権放棄と引き換えにこの「ババヌキ」から抜けて産業再生機構にババを押し付けるためには、「機構を使わなければ融資を回収する」という最後通牒にも近いカードをダイエーに対して切るしかない。これは、メンバンクが切るカードとしては露骨に非道なカードで社会的批判を招きかねないという問題点と、実際には融資の回収なんかできないという意味で本質的にブラフであるという欠点を含んでいるものの、資金繰り倒産のリスクをダイエーが真剣に受け止めるならば、ダイエーを機構に送り込む非常に強力なカードをメインバンクが持っているわけであり、まさに引導を渡す役回りを演じることになる。

最後にダイエー側の事情だが、所有球団が優勝争いに絡んでいる状況では、イメージダウンにつながるような決断は困難。球団を別にしても、各種ステークホルダー(顧客、従業員、取引先、株主、それに中内一族)が一挙手一投足を監視するなかであっさり機構入りを表明すれば、現在の経営陣は多方面から批判を受ける可能性が高い。したがって、徹底的に抵抗して自主再建の可能性を探るという演技(ポーズ)が要求されている。しかし実際には、自主再建において不可欠となる新しいスポンサー(いわゆる投資ファンドを含む)はなかなか見付からない。たとえ見付かったとしても、支援の条件として産業再生機構以上に厳しいリストラ案を突きつけてくる可能性がある。ダイエーの現経営陣に最大限のフリーハンドを与えて経営再建を任せるようなスポンサーがでてくる可能性は、限りなくゼロに近い。結局「白馬の王子様」は来ないという状況が、時間を経るにつれて、各ステークホルダーに認識されてきているように思う。言い換えると、結局「機構でもいいか」というある種のあきらめムードが醸成されつつある。球団が優勝を逃がした今、まさに機は熟したといえよう。

ということで、各プレーヤーの事情を重ね合わせると、落とし所は「ダイエーの産業再生機構入り」にならざるをえない。機構入りになった場合、その事実よりも、むしろ再生のためにダイエーの店舗網をどこが買うのかが最大の関心事になろう。日本撤退の噂もあるカルーフルが起死回生で買いにくるのか、あるいはウォールマートが触手を伸ばすのか。こうした外資の滲出を牽制する国内系(イトーヨーカドー、イオン等)が防戦買いに回ることがあるのかどうか。福岡ダイエーホークスの処遇よりも、個人的には興味深い。