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ポピュラリティの光と影―新海誠『君の名は。』

映画 おたく

新海誠監督の最新作品『君の名は。』を観に行った。

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これまでの新海誠作品の中で最大級のヒット作。僕が行ったのは平日の22時近いレイトショーだったが、それでもほぼ満席。

高校生の男女の中身が入れ替わるという設定は、古典的名作の「転校生(原作:おれがあいつであいつがおれで)」を彷彿とさせるラブコメ的な味わい。

そこからの展開はけっこう複雑な感じになっていて、思い出す作品としては「時をかける少女(細田守版)」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」「ハウルの動く城」「魔法少女まどかマギカ」「シュタインズ・ゲート」など。

当然「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」などの新海誠自身の過去作品へのセルフオマージュもあり。

これまでの作品は、結ばれない男女の「悲恋」を割とストレートに描いて、クライマックスに有名な音楽を持ってくるというのがこの監督の必勝パターンだったが、今回はもう少し複雑。

ケータイ小説的な「泣ける」恋愛の展開に、SF要素を絶妙にブレンド。

時間操作的な要素もある中で「悲恋」のエンディングを予感させつつも、今回はポピュラリティ獲得のために全体としてハッピーな方向に振られている。

個人的には、細田守版「時をかける少女」の「未来で待ってる」とか、魔法少女まどかマギカの「ここはかつてあの子が守ろうとした場所なんだ」とか、仮面ライダー龍騎の「どけって…あんたこそ」あたりの距離感での余韻をもって迎えるエンディングの方が僕の好みではあるけれども、それはマイノリティなのかもしれない。

お互いへの想いを募らせながら、大きな障害に阻まれて会えない二人が、最終的に邂逅を遂げて結ばれるっていう流れにはどうも感情移入できない。結ばれた時点が相手への期待も幻想もピークで、そこからは幻滅していきやしないかと心配になるんだよね。

まあ、そういう風に心配する僕のような鑑賞者の方が少数派で、実際にはハッピーエンドを望む視聴者が多いんだろう。

そして、本作の目玉となる隕石の落下。

ワルプルギスの夜シン・ゴジラ、隕石…と、人類を襲う厄災は様々な形を取るが、作品の作り手と鑑賞者が3.11の東日本大震災を共通体験として持っていることでリアリティの水準が高まる部分は確実にある。だから、同じ作品が海外で「リアルだ」と思われるのかどうか僕が懐疑的にならざるを得ない。

ストーリーが甘めというところ、声優に人気俳優の神木隆之介を配したところ、キャラデザに「あの花」の田中将賀を起用したところ、尺を100分強まで長くしたところ、決め手となる音楽をOP・挿入歌・EDで使い分けたこと…ポピュラリティ獲得のためのさまざまな仕組みが見て取れるが、実際にヒットしたことでそういう方面のプロデューサーの手腕は功を奏したと言えるのだろう。

ポスト宮崎駿、ポスト細田守的な観点で、ヒット作を生むことができるアニメクリエーターとして新海誠監督が改めて認知されたことは間違いない。

ただ、「シン・ゴジラ」は庵野監督がオタクとしてのこだわりを追求した結果のヒットとなった一方、「君の名は。」の方は、これまでの新海誠作品にはなかった非オタク的要素があちこちに見られ、それこそがヒットの原因になっているように感じる。

それを寂しいと思ってしまったのは、きっと僕がオタクだからなんだろうね。