胸のすくエンディング―『ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編(8)』

ひぐらしはオワコン―そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。『ひぐらし』なくしては『まどマギ』も『シュタゲ』もなかったかもしれないのに。

でも、鈴羅木かりんの『ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編』を知ってからは、この作品が続く限り「オワコン」にはできないと思い直した。少なくとも僕にとっては。だって、結末を知っているのに、続きが読みたくてたまらないのだ。全然終わってなんかいない。これはなぜだろう。

思うに、『ひぐらし』という同じコンテンツであっても、ゲームにはゲームなりの表現があり、アニメにはアニメなりの表現があり、コミックにはコミックなりの表現がある。実写にも実写なりの表現があるが、ハードルは高いことも明らかになった(ちなみに、実写の怪作『ひぐらしがなく頃に』は別のコンテンツということにしよう)。

『ひぐらし』はもともとはゲームではあるが(より正確には「サウンドノベル」というカテゴリのゲーム)、コミックの手法によりさらに迫力を増したのだろう。ゲームともアニメとも異なり「音」はないが、その分「フレーム」に縛られない起伏あるカット割りと、キャラクターの内面をきちんと伝える「表情の豊かな絵」を獲得したのだ。もちろん原作者の竜騎士07による豊穣なテキストも健在。これは原作を知っていてもよむ価値がある。

さて、その『ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編』の最終巻となる(8)が刊行された。以下ネタバレ。

まず表紙からして『ひぐらし』らしくない。明るい。赤い血が飛び散っておらず、青い空が広がっている。この表紙が示す通り、これはTRUE END。大団円。何度も何度もやり直した結果たどり着いた世界。誰にとっても「やりなおしたい」と願う余地のない世界。魅音も、圭一も、レナも、沙都子も、梨花も、誰も彼もが幸せになれる世界。羽入にも羽入なりの結末が用意される。そして、一番感動的なのは、高野三四にも救いの手が差し伸べられること。富竹、あんたはかっこいいぜ。ループ世界に終止符を打つ存在として赤坂がクローズアップされることが多いが(それはもちろん間違ってはいないが)、トミーだって負けてない。たぶん、彼の活躍がなければ、高野三四の妄執や怨念が別の形で新たに世界を呪っていた可能性はあるだろう。

そういうわずかな暗転の萌芽さえも封じ込めたエンディングは感動的。胸がすくようだ。特にずっと陰鬱な表情ばかりだった羽入の笑顔が最高。羽入と梨花の仲良し2ショットも好きだ。そんなあとの「完」の文字に、作者だけでなく読者も達成感のような満足を味わうことができる。そして・・・「完」の後から始まる追加のエピソード「お子様ランチの旗」が実に印象的。世界観を壊すようなギャグパートだと興ざめなのだが、「ひぐらし世界」の中で「こういう可能性もあったよな」「そうしたら世界はどうなっていたんだろう」と深い余韻を残す。こういう終わり方は好きだ。

ということで、読者にとってはこれは待った甲斐のある一冊。鈴羅木かりん先生、お疲れさまでした。迫力と萌えのブレンドが絶妙でした。本当にごちそうさまでした。