世界に中心なんてないし、現実には主人公なんていない。まして自分は主人公ではない―
いや。逆の言い方もできるかもしれない。世界の中心は常に自分だし、主人公は私だ。でも、その物語は小説のようにいくのだろうか―
くらもちふさこの最新作『駅から5分』の1巻、2巻を読んだ。「駒込」をモデルにした「花染」が舞台。そして、そこに生きる人々のドラマを群像劇として、連作集的に描く。少女マンガ的な「王子様」と「ヒロイン」も登場はするが、その周囲の人の描き方がしっかりとしている。友人や家族はもちろん、それ以外の子供、警官、タクシーの運転手なども。みな自分の「人生」を生きている。
そう、現実の世界には「脇役」などという人はいない。ちょうど「主役」という人がいないように。くらもちふさこはその前提から物語を紡ぐ。これが現実。これが日常。そこにほんの少しのドラマ。そして、ちょっと多めの夢と希望。読んでいて心が洗われるような話もあるが、激しく心を揺さぶられるような話もあった。
それにしても、感性の瑞々しさと新しい表現に挑戦する姿勢に感嘆。あれ、くらもちふさこって僕よりも年上だよな、と改めて確認してしまった。もちろん物語の構成の緻密さや伏線の周到さを思えば、熟練した達人の仕事であることは疑いようがないのだけれど。表紙だけでもセンスいいと思わせる。無理して流行を取り入れているような不自然さがないのもいい。
出たばかりの第3巻の感想は、また改めて。
- 作者: くらもちふさこ
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