思い出しては消え、消えては思い出す―『(500)日のサマー』

I once had a girl, or should I say she once had me?

"Norwegian Wood"(The Beatles)

『(500)日のサマー』はシンプルな映画だ。トムはサマーに一目ぼれ。彼女との距離は、トムが聴いていたザ・スミスをきっかけに一気に縮まる。だが、サマーは彼氏を作らない主義。さあ、どうなる?

サマーはトムにとって『魔性の女』なのか。この映画でも、悩めるトムの心情は痛いくらいに語られるが、サマーの内面は描写されない。シギサワカヤの『ファム・ファタル』のように、主人公から見たヒロインは謎そのもので、どこまでも神秘的、そしてときに理不尽。

この作品が長編デビューとなるマーク・ウェブは、時系列を大胆に組み替えつつテンポ良くシークエンスを刻む。確かに、後から恋愛を振り返るとき、僕らの記憶は決してクロニクルにはならない。ランダムに、あるいは連想ゲーム的に、思い出しては消え、消えては思い出す。作品の時間が96分と適度に短いこととあわせて、スタイリッシュ。ミュージック・ビデオ出身の監督らしい。

ジョセフ・ゴードン=レヴィットは、ヒロインを思う情熱を持っていて意思表示も明確な主人公のトムを好演。だから、「草食系男子」の一言では括れないとは思うが、それでも「細身で繊細な優男」。あえて一言で言えば、かわいい。『インセプション』のクールなアーサーとは全く別の魅力を見せてくれる。

ファッショナブルな映画だが、繊細で傷付きやすいトムの姿が心に刺さる。トムの気持ちを共有するために、ひりひりするようなザ・スミスを聴いて、心の中に沈んで行くのもまた悪くないかも、と思わされた。

(500)日のサマー [Blu-ray]

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