これが西尾維新の本気なのか〜『猫物語(白)』

化物語』のセカンドステージ的位置付けの始まりとなる『猫物語(白)』を読んだ。以下ネタバレ。

猫物語 (白) (講談社BOX)

猫物語 (白) (講談社BOX)

前巻の『猫物語(黒)』がメタ物語的な視点に立った阿良々木の戯言中心だったのに対して、今回は羽川翼の視点による、羽川翼の語り。阿良々木の登場がほとんど終盤のみなので、羽川のまじめな語りが痛々しい。まじめすぎるくらい。

戦場ヶ原とのセクハラ的な掛け合いや、神原とのかみ合わない会話が、羽川の孤独をあぶり出していく。そして、彼女の家庭環境の悲惨さや、人間関係の貧しさを浮かび上がらせる。ブラック羽川が代弁するまでもなく羽川翼は虐待が生み出した多重人格の「可哀想な子」なのだ。

その羽川が恋をした。阿良々木に。そこで新たな怪異が始まる。虎よ、虎よ!というわけだ。虎は嫉妬の権化。戦場ヶ原に接近する阿良々木への嫉妬が生み出した怪物だ。この怪物を退治するために、彼女は自分の内面にある感情と向き合わねばならない。そして、その感情を取り扱うために、相手に気持ちを打ち明けねばならない。

「ねえ、阿良々木くん」
「ん?」
「私は、阿良々木が大好きだよ」
 私は言った。

「結婚を前提に、私と付き合ってくれないかな」

 やっと言えた。
 これだけのことを言うのに――半年近くかかった。

結末はまあ想像の通り。彼女はこの物語のヒロインではない。悲劇のヒロインにはなれるかもしれないけれども。そして、阿良々木は羽川のヒーローでも救世主でもない。しかし、今回の怪異とその後のイベントを経て、彼女は自分の立ち位置を確かめることができ、自分の居場所を見つけることができるようになるのだ。

これが大団円であるといえば物語的にはそうなんだろう。しかし、羽川にとっては、そして僕のような羽川派にとっては、なんともやりきれない結末だ。

また、羽川派を自認する西尾維新にとっても、この物語を書くことはつらいことだったと信じたい。なぜって、文体にいつもの軽妙さがなかったから。かなりガチ。かなり本気。これが西尾維新の本気なのか、と思った。で、この本気を読者としてこれからも受け止められるかと言われると、僕にはちょっと難しい。今後3ヶ月毎にこのシリーズは書き下ろされていく予定だけれども。