活字離れ対策?〜『勝手にふるえてろ』

綿矢りさの新刊『勝手にふるえてろ』を読んだ。

勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ

賞味期限切れの片思いと好きでもない現実の彼氏。
どっちも欲しい、どっちも欲しくない。
恋愛、しないとだめですか。

片思い以外経験ナシの二十六歳女子が、時に悩み時に暴走しつつ「現実」の扉を開けてゆくキュートで奇妙な恋愛小説。3年ぶりの注目作!

というところまではネタバレなし。で、以下ネタバレ。

まず文体は、デビューの頃の綿矢りさのまま。あの頃は斬新だったが、見慣れてしまったせいか新鮮さはない。もっともこの文体が好きな人にはたまらないということになるだろう。

内容も、他愛ないと言えば他愛ないが、最後までそれなりに読ませた。イチ彼とニ彼の間をさまよう主人公は、どこか人間として決定的に欠陥があるようにも思えるが、そういう方がストーリーとしては面白いということだろう。

一つ気になったのは、会社で働く描写にはあまりリアリティがなく、どちらかというと類型的な印象だが、この作家の年齢と経験からすると致し方ないといったところ。まあ、経済小説じゃないから、気にしちゃいけないんだろうけど。

それに比べると、池袋のアニメイトの描写の方がなかなかにリアルだった。「26歳・おたく・処女・ひとりよがり」という主人公と、綿矢自身がどこまで重なるのだろうかなんて考えてしまった。いや、そういう読み方は正しくないということは十分に分かっているけれども。

さて話を戻そう。エンディングは想像以上にドラマティック。でも、全体的な雰囲気はとてもライトでカジュアル。現代の「口語」という感じで読みやすい。なんというか、ケータイ小説にも通じる感覚。と思ったら、iPadiPhoneで電子配信しているそう。しかも、書籍と電子書籍の同時リリースは初めての試みということ。なるほど。活字離れ対策に綿矢りさ電子書籍か。これはマーケティング的にはいいところを突いているのではなだろうか。

価格的には電子版が1,000円、書籍が1,200円とどちらも買い求めやすい。一見すると電子版の方がお得のように見える。だが、自分が読んだあとに、友達に貸して、最後に中古で売却するとすれば、書籍のコストパフォーマンスも悪くない。…と思ったら、電子書籍の方は、メッセージ動画付きか。それはそれで魅力的な特典かもしれない。