ボリウッドの完璧な映画〜『スラムドッグ$ミリオネア』

アカデミー賞で過去最多8部門(作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞、音響賞)を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』(公式サイト:)を観た。

テーマ、脚本、カメラワーク、演出、音楽どれをとっても素晴らしい。個人的に「完璧な映画」だと思う。ボリウッド映画もここまで来たか。

監督のダニー・ボイルはかつて『トレイン・スポッティング』でイギリス映画に新風を吹き込んだが、今回はインドのムンバイのスラムから這い上がってきた若者を実に活き活きと描いた。貧困、暴力、犯罪等の只中にありながらも、逆境に決してあきらめることなく、前向きに生き続けることの素晴らしさを示している。

そんなテーマを描きながらも、説教臭さがないのもいい。「大事なのはお金ではなくて愛」という気恥ずかしくなるようなテーマを正面に据えるが、多額の賞金を獲得するクイズ番組を舞台としている。その中で、欧米の資本主義や、軽薄なTV業界等への皮肉も垣間見えるが、基本的には前向きな主人公に寄り添う形で話が進む。クイズの答を知っているということは、単なる「知識」ではなく、解答者の「人生」と分かちがたく結びついている。そのアイデアを「高額の賞金を獲得した」という結末から単に時間を遡るのかと思いきや、最後の一問を残していることが途中で明らかになる。この瞬間もスリリング。そしてサスペンスを残して、物語は一気にエンディングへ。

映像も美しい。アジアのエキゾチックな風景を、ことさら理想化もせず、さりとて見下したような偏見も入れず、実に淡々と描く。その美しさ。それでいて、湿気や臭気をも感じさせる。

音楽もインドならではの耳新しさを感じさせつつ、映画音楽としてダイナミック。そして、インド映画といえばダンスだが…まあ、それは「お楽しみ」ということで。

こんなに完璧な映画は珍しいというくらい完璧な作品。