「奇策」というよりも「奇事」

日経新聞が、三菱UFJの黒字が「奇策」によるものだと報じた。

三菱UFJ、奇策で黒字 保有株の簿価変更で損失抑制

三菱UFJフィナンシャル・グループが2009年3月期の業績予想を最終黒字としたのは、保有株式の簿価を変更するという“奇策”が大きく寄与したもようだ。損失を約750億円抑える効果があるといい、これがなければ赤字の予想だった可能性もある。

従来、株式の簿価は三菱東京UFJ銀行が発足した06年1月の株価を基準にしていたが、これを持ち株会社の三菱UFJが発足した05年10月に変更。この間に株価が上がったため、簿価の切り替えによって減損処理額が約750億円圧縮できたという。三菱UFJは09年3月通期の最終利益を500億円と予想している。

(日本経済新聞 2月7日)
日本経済新聞

金融商品の会計を紐解きつつ、日経の記事を読んでもどういう仕訳をするのかさっぱり分からない。この記事を書いた記者には、記事のエッセンスになっている以下の3点の会計処理を説明してほしい。

1「保有株式の簿価を変更する」
2「株式の簿価は…06年1月の株価を基準にしていたが…これを05年10月に変更」
3「この間に株価が上がったため、簿価の切り替えによって減損処理額が…圧縮できたという」

2番目などは、2005年に遡って過年度決算の修正をするということを言っているのだろうか、まさかビックカメラじゃあるまいし。結局のところ、赤字を黒字にする「奇策」というのは理論上は存在しうるが、そのような会計処理が適法とされるには、監査法人、取引所、当局、株主、世間の評価(レピュテーション)などさまざまなハードルがある。「騙す」ことはできない仕組みになっている。

ちなみに、三菱UFJのサイトには日経の記事で書かれているような会計処理を行ったというような記述は一切ない。日経は少なくともソースを明らかにしてほしい。もし十分な根拠のないままに「これがなければ赤字の予想だった可能性もある」というのなら、それは「風説の流布」そのものだ。

結局、「奇策」などではなく、日経の方が奇妙な記事という意味の「奇事」なのではないかといわざるを得ない。