妄執はドラマを生む〜『真夜中に捨てられる靴』

デイヴィッド・マレルの短編集『真夜中に捨てられる靴』を読んだ。

真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)

真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)

帯には「S・キング、J・エルロイ、D・クーンツ絶賛!」と書かれていて、ホラーサスペンスかと思わせるが、実際には、ミステリありSFあり歴史小説ありで、何ともバラエティに富んだ短編集だった。

しかしながらどの作品にも「妄執」が影を落としており、人間の持つ執着心が想像を超えるドラマを生むことが示される。

特に気に入ったのは、難病の父親を冷凍睡眠する「復活の日」。冷凍睡眠をここまで深い家族ドラマにしたものは読んだことがなかった(ハインラインの『夏への扉』は、愛猫のピートを除けば基本的には独り者だ)。

話は変わるが、昨夜、これを読みかけて眠ったら、亡くなった父が冷凍睡眠の技術で生き返ったという夢を見た。夢の中で、生き返った父にまず何を話そうか悩んだ挙句「残した株券はそれぞれいくらずつで売るつもりだったのか」ということを聞くべきかと思い至った。が、その次の瞬間、「生き返って早々にそんなことを聞くのもどうか」と思い直し、父の元気そうな顔を眺めているうちに目が覚めた。

目が覚めてから冷静な頭で考えたのは、日本で死者を火葬するのは、保健衛生上の理由が主たるものだろうけれど、こういう「妄執」を断ち切る効果も大いにあるに違いない、と。まあ『黄泉がえり』みたいな作品もあるけどね。