分裂気質としてのデイヴィッド・リンチ

美術手帖の最新号は『デイヴィッド・リンチ』。彼の映画はとても好きだが、映画以外の作品についてはまったく知識がなかった。本書では回顧展からドローイング、ペインティング、そしてフォトグラフが紹介されている。

美術手帖 2007年 10月号 [雑誌]

美術手帖 2007年 10月号 [雑誌]

フォトについては、雑誌の表紙だけからはひたすら耽美的な作風に思われるが、大半は非常にグロテスクで、見るほどに神経をひりひりと刺激する。

精神科医の斎藤環氏は本書所収の評論で以下のように述べている。

私の「診断」によれば、リンチはまごうことなき「分裂病(統合失調症)なき分裂病」の系譜に連なる表現者だ。私の知る限り、この気質を持つ商業映画監督はリンチただひとりである。系譜の偉大」なる先達としては、作家フランツ・カフカと画家フランシス・ベーコンの二人の名前を挙げておけば十分だろう。

(『「映画という謎」の分有』斎藤環

確かにリンチの映画は、カフカの小説と同様、悪夢の中を彷徨うようだ。そして、リンチの描く絵画は紛れも無くフランシス・ベーコンのそれと同質の気味悪さを湛えている。

リンチの分裂気質が生み出す芸術は、快感とは対極の感覚をもたらすけれども、僕の耳目を引き付けずにはいられない。それが何ゆえなのか論理的に説明することはできないけれども(いや、そんな無粋なことをするべきではないとさえ思う)、なんというか「生」や「死」の本質を直感的にもたらしてくれるように思う。

映画『インランド・エンパイア』も公開されていることだし、改めてデイヴィッド・リンチと向かい合う機会が増えそうだ。