権力と嫉妬〜『カラヤンとフルトヴェングラー』

とにかく面白い本で、夢中で読み終えた。20世紀ドイツを代表する二人の巨匠の対立をドラマティックに書いた傑作だと言える。

カラヤンとフルトヴェングラー (幻冬舎新書)

カラヤンとフルトヴェングラー (幻冬舎新書)

ナチスとの関係、敗戦直前の国外脱出、そしてベルリン・フィル首席指揮者の座をめぐる権謀術数。プロモーターやレコード会社(EMI)の暗躍などなど。下手なサスペンスよりもよほど面白い。

著者の中川右介は「クラシックジャーナル」の編集長。基本的には史実に基づいたノンフィクションだが、ときに大胆な心理描写を織り交ぜ、巨匠の内面を想像しているのが、この本をより魅力的なものにしている。

表題には出てこないが、チェリビダッケも含めた「三角関係」(本書の帯の裏に図示)という視点で捉えるのが、一番分かりやすいのかもしれない。どの指揮者にもそれぞれ感情移入できる部分があり、人間模様の面白さを感じた。各指揮者の演奏・音楽性を知っているにこしたことはないが、かりに知らなくても楽しめる読み物だと思う。


のだめカンタービレ」における、シュトレーゼマンと千秋の関係なんて、これに比べたらかわいいものだ。