「俺をオトコにしてくれるか?」

と、口説かれた。ヤマジュン先生(山川純一先生)のマンガにも出てこないくらい陳腐な口説き文句だ。いまさらBLとかやおいとか騒ぐ年齢でもないのだけれど、なぜかどうしようもなく動揺してしまった。

だけど、僕はできるだけ平静を装ってこう切り返した。
「もちろんあなたの力になりたいとは思っています。で、どうしたら僕はあなたをオトコにできますか?」

彼の答は全く予想外のことだった。それの良否もとっさには判断しかねた。しかも、彼のお願いに応えることで、その人をオトコにするかどうかすら怪しいものだった。ただ、彼が熱心にそれを望んでいることだけは分かった。

「週末3日間考えさせて下さい」
僕はそう返答して、その場を去った。

世界がぐるぐる回った。さまざまな未来の可能性を思い浮かべ、自分のできることできないことをとにかく冷静に見極めようと努力した。だが、混乱から抜け出すことはできなかった。立っているのが難しいほどだった。

そんな僕を救ってくれたのは、親友だった。僕よりもよっぽど困難に直面しているはずなのに、力を貸してくれた。知恵も貸してくれた。指針を示してくれた。

僕は、誰かをオトコにするために生きることはしない。それが親友のアドバイスの元で導いた僕の結論だ。僕は、何よりもまず僕のために生きる。それができるまでは、誰かの力になんかなれやしない。そう思う。