泣いて馬謖を斬る〜カネボウの上場廃止

東京証券取引所は、12日、過去の粉飾決算が発覚したカネボウを上場廃止とすることを発表した。再生中の企業を上場廃止にすることは、それ自体が引き金となって企業の再生の腰を折ってしまうおそれがある。

場合によっては一部の方面から非難を受ける*1ことを承知で東証が今回の決定に踏み切ったのは、粉飾決算が明らかになった企業に甘い対応をすれば、他の企業に示しがつかず、モラルハザートの事態を起こしかねないということだろう。

泣いて馬謖を斬る」になぞらえるほどピカピカの企業ではなくとも、ルールの実効性を維持するために、証券取引所はときに企業を「斬る」必要がある。これが資本市場の番人の役回りだ。事なかれ主義は、全体最適をもたらさない。


以下、やや専門的な話題。

東証が苦渋の決断を下したのに対して、日本経済新聞社(日経)の「事なかれ主義」はひどい。カネボウは、日経平均採用銘柄なのだが、

1.2004年10月1日「カネボウの株式併合に伴うウェイト増加」
   

2.2004年10月28日「カネボウ株、日経平均に当面維持」
    

3.2005年5月12日「カネボウ株、日経平均から除外」
   


という具合に迷走した。

こういた日経の「ルール」従う以上、日経平均株価指数に連動するように運用するファンドは、去年の10月1日にカネボウ株を大幅に買い増しせざるをえず、そして、今回、カネボウ株を一気に売却せざるを得ない。この間の株価の乱高下とその影響による運用成績の低下は、日経の責任に帰する部分が大きい。もっと前にカネボウを日経平均採用銘柄から外していれば、こんな事態にはならなかった。それができなかったのは、まさに日経の「事なかれ主義」ゆえである。

まあ、市場の論理では「そんなおかしな指数は使わないよ」と淘汰されるわけで、今回のカネボウをめぐる日経の対応は、後年振り返ったときに日経平均の衰退を加速する象徴的な「事件」として位置付けられるかもしれない。

*1:たとえば、これでカネボウの業績が悪化してリストラが実施された場合、従業員の攻撃の矛先が東証に及ぶ可能性もある