またムーディーズか

ムーディーズは、邦銀の劣後債務に対する格付について、格下げ方向で見直すことを発表した。

ムーディーズは、日本の破綻処理制度が、世界的なシステミックストレスが低く、債権者に損失が発生することが稀であった時代に策定され、かつ、それが前回の日本での金融危機において有効に機能したことを認識している。銀行の破綻処理を巡る政治は、ストレス時には質的に変化する可能性もあり、その場合には日本の規制当局が近年海外で使われるようになった政策手段を援用する可能性がある。
したがって、今回の格付の見直しは、現在の当局の意図の変化や銀行の信用力の低下とは関連しないものの、ムーディーズは、従来の想定と比較した場合に、ストレス時における政府の対応に変化が生じる可能性があるか否かを評価する必要がある。また、今回の見直しでは、日本のシステミック・サポートの予見可能性とその持続可能性を、他の国のシステムとの比較の中で評価する。

格付会社は普通の営利企業だが、なぜか「格付機関」と呼んでありがたがる時代もあった。構造改革がブームだった時代には「格下げされる」というのが圧力になったこともあった。

だが、格付会社がしているビジネスの本質は、危機を煽り、手数料を稼ぐというものに他ならない。そして、そのことが露呈した以上、もはや何を言おうと聞き流すくらいの態度の方がよい。投資家と乖離した格付会社の論理などに、いちいち聞く耳を持つ必要はない。

今回の格下げ方向の見直しとやらも、日本の破綻処理制度の評価をどの程度できているのか全く見えない。キプロスの問題があったから、この点についてより注意する必要が出てきたのは分かる。が、日本の政府のシステミック・サポートの予見可能性をムーディーズが評価できるとは思えない。まして、それを基に格付を付与するなど、傲慢もいいところだ。

いまや、格付会社の間でも競争が激化している。耳目を集めようとするあまりに「下がる下がる詐欺」ばかり行っている格付会社は、市場から淘汰されることも十分にあろう。格付会社のプレスリリースを受け止める側も、鵜呑みにすることなく、吟味する姿勢が求められる。その点でいえば、今回のムーディーズの発表は、「またムーディーズか」という類のものだと言わざるを得ない。