フェルメールはなぜ人を魅了するのかー
一つの理由は今見ても古さを感じないからだろう。
“古さ”を感じないのは、カメラオブスキュラを活用して構図やコントラストなどに「違和感」のないように描いているからだとしばしば言われる。
もう一つの理由は、現存する作品が35点と言われていて、「コンプリート欲」をそそるからかもしれない。
僕は今までに22点を鑑賞していたが、今回そこにまだ見ていない3点が加わるということで、上野の森美術館に足を運んできた。
キービジュアルは「牛乳を注ぐ女」。
何年か前にも、京都と東京で展示された作品。
モチーフとしてシンプルで、色合いも美しく、何より「静謐さ」を感じさせるという点で、人気を獲得しやすいのだろう。
今回初めて見たのは「マルタとマリアの家のキリスト」「ワイングラス」「赤い帽子の娘」の3点。
「マルタとマリアの家のキリスト」は、フェルメール最大のサイズかつ宗教的な主題ということでレアであるが、彼の作品群のど真ん中には存在していないという感じ。
「ワイングラス」は、当時のオランダの人物画・風俗画のモチーフを取り入れたものであるか、どことなく「生き生きとしていない」というか、背景にある人物の<関係性>や<物語>を感じにくいところがあるかもしれない。ある意味で渋い作品。
「赤い帽子の娘」はサイズも小さく、モチーフも、女性の顔のアップというシンプルなものだけれども、逆光で描かれたトーンや、あいまいになったディテールに、彼の「挑戦」「実験」を感じ取ることができた。写真でいうと、ハレーションとかフレアを油彩画で表現しようとしているというか。
今回来ている作品の中で僕が最も好きなのは、「手紙を書く女と召使い」。
今回もじっくりと鑑賞したけれども、破綻のない構図とコントラストとトーンに唸った。
写真を撮る観点で見ると本当に「わかる!」と言いたくなるのがフェルメールだと思う。
今回の鑑賞によって、僕の見たフェルメール作品は25点になった。
別に「死ぬまでにフェルメールを全部見たい」と思っているわけではないけれども、それなりに美術観賞を続けていくと、フェルメール観賞作品数は増えていく。歳をとれば年相応に。
ということで、若い人がフェルメール鑑賞を始めるのであれば、今回のように一度に9点を鑑賞できるのは絶好の機会だと思う。
行くのであれば、平日の最終回(19時〜20時30分)がおすすめ。
音声ガイダンスが無料なので、解説を聞きながらじっくりと鑑賞できると、フェルメールやオランダ絵画がさらに好きになるだろう。
(備忘録=これまでに鑑賞したフェルメールの作品)
- 「ディアナとニンフたち」(マウリッツハイス美術館)
- 「眠る女」(メトロポリタン美術館)
- 「士官と笑う娘」(フリック・コレクション)
- 「中断された音楽の稽古」(フリック・コレクション)
- 「手紙を読む青衣の女」(アムステルダム国立美術館)
- 「水差しを持つ女」(メトロポリタン美術館)
- 「リュートを調弦する少女」(メトロポリタン美術館)
- 「真珠の首飾りの少女」(ベルリン絵画館)
- 「手紙を書く女」(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)
- 「真珠の耳飾りの少女」(マウリッツハイス美術館)
- 「少女」(メトロポリタン美術館)
- 「婦人と召使」(フリック・コレクション)
- 「天文学者」(ルーヴル美術館)
- 「地理学者」(シュテーデル美術館)
- 「レースを編む女」(ルーヴル美術館)
- 「手紙を書く女と召使い」(アイルランド国立絵画館)
- 「信仰の寓意」(メトロポリタン美術館)
- 「ヴァージナルの前に立つ女」(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)
- 「ヴァージナルの前に座る女」(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)
- 「眠る女」(メトロポリタン美術館)
- 「牛乳を注ぐ女」(アムステルダム国立美術館)
- 「絵画芸術」(ウィーン美術史美術館)
- 「マルタとマリアの家のキリスト」(スコットランド・ナショナル・ギャラリー)
- 「ワイングラス」(ベルリン国立美術館)
- 「赤い帽子の娘」(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)