『MINAMATA』を観に行った。
水俣病の被害を世に告発する「意識高い系」の息苦しい映画だろうと思ったら、そうではなかった。
かつて戦場カメラマンとして名を馳せながら50代に入って撮影への情熱を失った写真家ユージン・スミスの再起が主眼となっている。
酒に溺れ、家族からも孤立し、機材も売って、偏屈になっている自堕落な初老の男性が、輝きを取り戻す様を演じるジョニー・デップ。
ダメなところも、チャーミングなところも、そして芯に熱いものを持っているところも、実在のユージン(あるいは誰もがイメージしているユージン)にそっくり。
カメレオン俳優とよく言われるジョニー・デップだが、それはコスプレなどの外見の模倣という表層的なものに留まらず、役の内面に入り込んで「魂」を体現することを指すのだと、改めて感じさせられた。
同じような年齢に差し掛かった自分としては、共感せずにはいられない。
そればかりか、「こんな風に熱くなるものを見つけたい」とさえ思わされた。
ジョニー・デップはやはり凄いが、脇を固める日本人俳優の美波、真田広之、國村隼、浅野忠信らの演技も輝いている。
特にチッソの社長を演じた國村隼は、英語の台詞回しにも迫力があり、「巨悪」を一人の男として見事に演じていた。
坂本龍一の音楽も作品の世界観に合った見事な劇伴だった。押さえ気味のオーケストレーションが、過剰な演出を避けているこの作品のトーンにぴったりだったと思う。
エンドロールで世界中の公害を見せるあたりは、環境問題へのプロパガンダ的なものも感じたが、作品の主題はあくまで「ユージン・スミスの最後の輝き」であり、もっと多くの人に気軽に観られるべき作品と思う。