ユージン・スミスの最後の輝き〜『MINAMATA』(2020年、アメリカ、アンドリュー・レヴィタス監督)

『MINAMATA』を観に行った。

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水俣病の被害を世に告発する「意識高い系」の息苦しい映画だろうと思ったら、そうではなかった。

かつて戦場カメラマンとして名を馳せながら50代に入って撮影への情熱を失った写真家ユージン・スミスの再起が主眼となっている。

酒に溺れ、家族からも孤立し、機材も売って、偏屈になっている自堕落な初老の男性が、輝きを取り戻す様を演じるジョニー・デップ

ダメなところも、チャーミングなところも、そして芯に熱いものを持っているところも、実在のユージン(あるいは誰もがイメージしているユージン)にそっくり。

カメレオン俳優とよく言われるジョニー・デップだが、それはコスプレなどの外見の模倣という表層的なものに留まらず、役の内面に入り込んで「魂」を体現することを指すのだと、改めて感じさせられた。

同じような年齢に差し掛かった自分としては、共感せずにはいられない。

そればかりか、「こんな風に熱くなるものを見つけたい」とさえ思わされた。

ジョニー・デップはやはり凄いが、脇を固める日本人俳優の美波、真田広之國村隼浅野忠信らの演技も輝いている。

特にチッソの社長を演じた國村隼は、英語の台詞回しにも迫力があり、「巨悪」を一人の男として見事に演じていた。

坂本龍一の音楽も作品の世界観に合った見事な劇伴だった。押さえ気味のオーケストレーションが、過剰な演出を避けているこの作品のトーンにぴったりだったと思う。

エンドロールで世界中の公害を見せるあたりは、環境問題へのプロパガンダ的なものも感じたが、作品の主題はあくまで「ユージン・スミスの最後の輝き」であり、もっと多くの人に気軽に観られるべき作品と思う。

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