たとえこの世界の主役になれなくても〜『フリー・ガイ』(2021年アメリカ、ショーン・レヴィ監督)

物心ついた頃の「全能感」は現実世界に揉まれることでどんどんと修正されていき、大人になる頃には自分が「この世界の主役に生まれていない」ことに気付かされる。ごく一部の人を除いて。

「たとえこの世界の主役になれなくても、自分は自分の<生>を生きたい」

そんな思いを持つ大多数の大人に贈られた作品とでも言えるのがショーン・レヴィ監督の『フリー・ガイ』。

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ルーティンを繰り返すばかりの銀行員ガイ。

実は彼がいる世界は現実世界ではなくゲームの中で、プレイヤーがゲームをする中の大勢のモブの中の一人が彼だった。

そんなことを考えたり、気付いたり、ましてやそのルーティンから外れる行動を取れないはずのガイだが、自意識が芽生えて育ち始め・・・というお話。

ゲーム世界のキャラクターの織りなす物語と、そのゲームの外側にいるゲームデザイナーやプレーヤーの蠢く現実世界の物語。

この二つが絶妙にシンクロしつつ、相互に干渉して影響を与えながら進んでいく。

これはもうアイデアというか、世界観と脚本の勝利。

だが、決して企画倒れにならない、スピーディでスタイリッシュな映像が素晴らしい。

また作中に織り込まれるパロディやジョークや音楽も全てがハイセンス。

主演のライアン・レイノルズは、どこからどう見ても「ありふれてる良い人」になっているだけれども、どうやっても好感度が高くて、自分自身を重ねていってしまう。

物理と電脳が交錯して、クライマックスにはある種のジャンプもあるが、納得感もあるし、みんなハッピーになれて後味もいい。

これは2021年の映画の代表作として残る傑作。

あまり比べるものでもないかもしれないけど、『フリーガイ』のゲーム世界と現実世界の枠組みや描き方や相互作用が生む物語の巧みさを観てしまうと、最近見た『竜とそばかすの姫』の方は、似たような世界設定なのに、もうちょっとなんとかしてほしかったと思わずにはいられない。仮想世界に対する想像力なのかもしれないけど。