『クレヨンしんちゃん2021 謎メキ!花の天カス学園』(2021年、高橋渉監督)

三連休の初日。

観に行こうとしていたオペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』で関係者にコロナ陽性者が出てしまったため公演が中止に。

そこで、評判のいい『クレヨンしんちゃん2021 謎メキ!花の天カス学園』を観に行ってきた。

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クレしん映画は、『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』しか観たことがなくて、あれはあれでよくできているけれども、子どもではなく大人が楽しめるように作ってしまっているところは気になっていた。

そこでこの『天カス』。

めちゃめちゃよかった。

現在の日本を覆う格差社会実力主義の重圧。

その中で、上位層は重圧を、中位層は不安を、下位層は無力感をそれぞれ感じているのが実態。

目を逸らせたり、自分を騙したりしながら日々を送っている。

今回のクレしんは、そんな社会の縮図のような「天カス学園」に、友達と一緒に体験入学に行くという設定。

そこで出会う様々な人たち、そして起こる不可解な事件。

初期『ハリーポッターシリーズ』のようなジュブナイル感、『コナン』のような謎解き要素、そして『スパイダーマン』のような等身大のヒーロー的な物語が紡がれていく。

ミステリーパートもなかなか良くできていて、フェアにヒントが提示されつつも、ミスディレクションも散りばめられている。

それを子供達が「探偵クラブ」を結成し、危機を乗り越えながら真犯人に迫り、「この中に犯人がいます」というフーダニットを迎えるというカタルシス

しかも、謎解きで終わることなく、そこからトゥルーエンドに向かうところには、時節柄オリンピック的なスポーツ要素も盛り込まれている。

息が詰まるような格差社会実力主義社会の中の重圧・不安・無力感を、希望と自己肯定感に変えていくパワフルな作品。

公式サイトには「青春(ミステリ)の答えはひとつじゃない」というコピーが付けられているが、青春のど真ん中にいる子ども達だけでなく、子どもの心を持つ大人にも楽しめる二重構造。

良くできた子ども向けの作品は大人も感動させられるわけで、全く自分でも予想していなかったけど、最後に泣けてしまった。

今年のアニメ映画の中でナンバーワンかもしれない、と思うくらいのいい作品。

今の日本の映画界、興行収入だけでなく作品のクオリティという面でも、やっぱりアニメが牽引していると思わずにはいられない。