スーパースターの光と影〜『ロケットマン』(デクスター・フレッチャー監督、2019年、英・米合作)

そんな大それたものじゃないけれど、これが僕にできる精一杯
僕に与えられたこの歌を、君に贈るよ
エルトン・ジョン『Your Song(僕の歌は君の歌)』)


Elton John - Your Song (Top Of The Pops 1971)

好きな人への想いをエネルギーに作品を作りたい。

そして、その作品を好きな人に捧げたい・・・


どんな分野のクリエーターでも、こういう想いを抱いたことのない人はいないのではないだろうか。

ということで、エルトン・ジョンの半生を伝記的に描いた『ロケットマン』を観に行ってきた。

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監督が『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャーということで、どうしても両作品を比べてしまうが、これはライブの再現をクライマックスに持ってきた『ボヘミアン・ラプソディ』とは全く別のカテゴリの作品。

あるアーティストの成功と不安と孤独を描いた非常に内省的なトーンに覆われたミュージカル映画、と位置づけるのが一番座り心地が良いように思う。

家族に愛されない少年期は見るからに痛々しく、才能を見出されてからも周囲との軋轢に苦しむ描写はどこを切っても胸が苦しくなるばかり。

作詞家バーニー・トーピンと創作面で意気投合して代表作『Your Song(僕の歌は君の歌)』を生み出すシーンにのみ、決定的なカタルシスを与えられるものの、それ以外は辛いシーンの方が多い。

ショウビジネスに関わるスターには、常に光と影があるわけだけれども、エルトン・ジョンの場合には、その光と影のコントラストが一層強い、闇がひときわ深い、そんな作品に仕上がっている。

歌唱シーンのストーリーの構成などは、王道ミュージカルの”文法”を踏襲したものになっていて、ソロ、デュエット、アンサンブルなど、どの曲もドラマチックな効果を生み出している。

そういう観点では、作品の手触りとしてはむしろ『グレイテスト・ショーマン』の方にやや近いという印象を持った。


キャスティングとしては、年齢を重ねていくエルトン・ジョンを演じきったタロン・エジャトンを賞賛せざるを得ない。

歌唱力にも驚かされたが、複雑な内面を演じきった役者としての深み。

キングスマン』(2015年)では、やんちゃな盛りの青年を演じていたのが、『キングスマン・ゴールデンサークル』(2017年)では、コリン・ファースから主役の座を奪うまでのジェントルマンな「風格」を身にまとった成長に驚かされた。

そして、今回の『ロケットマン』。

スーパースターであるエルトン・ジョンのステージでの輝きを見せる「風格」は圧倒的。

さらに、「イケメン俳優」というレッテルの殻をも破ランばかりの特殊メイクで「疲れを感じたおっさん」を演じることも厭わず、というか、そんなエルトン・ジョンの影の面も演じきるという円熟の演技。

これでまだ20代とか驚きでしかない。

個人的にそこまでエルトン・ジョンの曲を知らなかったので、有名曲が波状攻撃のように繰り出される『ボヘミアン・ラプソディ』のようには盛り上がれなかったが、オリジナルのエルトンのボーカルに寄り添いつつ、映画のシーンに相応しい「曲想」を、俳優ならではの表現力をもってしっかりと織り込むタロンの歌声に痺れた。

サントラ盤が出たら入手してリピートしたい。

そんな気持ちにさせられる「佳作ミュージカル映画」だった。