伝説のバンドQueenの誕生からブレイク、そして危機から復活を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が公開された。
僕は一般公開に先立って「前夜祭」で鑑賞して来た。
会場の客層は、若者よりも中高年の方が多いというのは予想通り。
しかしながら、予想外だったのは、圧倒的な女性比率の高さ。
僕の両隣はともに二人連れのQueen女子で、上映前からその熱気に押されてしまった。
ストーリーは、Queenというバンドの歴史を時系列でなぞったもの。
しかしながら、メンバーの群像劇ではなく、ほぼフレディ・マーキュリーの半生を描いているというべき。
移民の子として居場所のなかった彼がバンドに加わり、メンバーとの交流を経て、自己表現として音楽に身を投じていくさまがサクセスストーリーとして描かれる。
バンドやアイドルが売れていくのを応援するのが好きな人であれば、この前半部分にかなり感情移入できるだろう。
バンドはメジャーレーベルと契約し、海外でのツアーも成功させ、セルフプロデュースとでもいうべき形でアルバムのレコーディングに専念していく。
だが、多忙な生活や、作品作りのプレッシャー、そしてレーベルとの意見の食い違い、メンバーの衝突など、成功の「光と陰」の陰の部分にも描写が及び、暗い陰を落とし始める。
その暗い陰は、Queenというバンドの活動だけではなく、フレディ・マーキュリーの私生活にも及ぶ。
恋人との別離、同性愛、孤独・・・
別のメジャーレーベルからのオファーを受けて始めたソロ活動でさえ、いつの間にか彼の精神を蝕み始める。
そして、エイズの発症。
中盤の重苦しい展開は、45歳にしてエイズでこの世を去ったフレディの苦悩を全面に出している。
スターダムを志向し、その高みに登っていった者だけが感じる「選ばれてあることの恍惚と不安」から、フレディもまた自由ではなかったというべきか。
だが、元恋人や、パートナーの助言を経て、フレディはQueenとして1985年のライブ・エイドに出演することを決意する。
どの出演者にも均等に時間枠が割り振られた世界的なチャリティコンサート。
Queen - Live at LIVE AID 1985/07/13 [Best Version]
いわば「伝説の20分」とでも呼ぶべきライブ。
この映画のクライマックスは、この終盤の20分間にあると言っても過言ではない。
音源はオリジナルのQueenのライブのものであるが、そこに完全にシンクロした俳優陣の演技が見事としか言いようがない。
当時この「神現場」を体験できなかった僕にも、時間を遡ってそこにいるような錯覚を与えてくれた。
4人メンバーを演じた俳優はいずれも当人の雰囲気を感じさせて、特にフレディ・マーキュリーという巨大なカリスマロッカーを演じたラミ・マレックは、最後の20分で完璧にフレディになり切った。
この終盤は、まさに「フィルムコンサート」の趣。
僕が選んだ劇場は、Dolby ATMOSのあるTOHOシネマズ新宿だったが、これが大正解。
ライブシーンでのドラムがものすごい音圧で、本物のライブにいるかのような臨場感。
これから行く人には、Dolby ATMOSでの鑑賞をオススメしたい。
監督の交代があったためか、映画全体としての構成や推進力については手放しで絶賛できるとは言わないが、音楽好き、ライブ好きなら胸が熱くなる作品。
次観る機会があれば、爆音・絶叫上演で鑑賞したい。