拝啓、ジョン・レノン
そして今ナツメロのようにステレオから流れてくる
あなたの声はとても優しい
(真心ブラザーズ「拝啓、ジョン・レノン」)
昨年末に大瀧詠一が亡くなったというニュースが飛び込んできた。日本のポップスにとって父のような偉大な存在であったが、その偉大さゆえに衝撃をどのようにも受け止めきれずに年を越した。ここにきてようやく気持ちの整理ができそうになり、彼の作品を聴いている。
誰もが知る名曲「冬のリヴィエラ」は前田憲男アレンジのストリングスが印象的だが、市川実和子の歌う隠れた名曲「 雨のマルセイユ」もそれに匹敵するような美しいストリングスの間奏部を持つ。もっと知られてもいい。
舞祭組「棚からぼたもち」の源流とも言えるうなずきトリオの「うなずきマーチ」。注目されにくい人達だけを集めて、自虐的にネタにするという逆転の発想。大瀧詠一名義ではなく、多羅尾伴内名義で提供された。
Wikipediaの記述「渋谷系などへの影響を指摘する声もある」に対して、「独自研究?」というコメントが付されている。だが、「指切り」が田島貴男時代のピチカートファイブにカヴァーされていることをもって、渋谷系への影響は事実認定していいだろう。
多くの人にカヴァーされた「夢で逢えたら」。個人的には森丘祥子バージョンが最高だと思ってきたけれど、最近の薬師丸ひろ子バージョンも丁寧な歌い方で素晴らしい。セリフがなくて、F.O.しないところから、こっちを好ましいと思う人も多そう。
アイドルへの楽曲提供でも大瀧詠一は偉大な足跡を残した。2013年の紅白歌合戦では「あまちゃん」157話として、小泉今日子と薬師丸ひろ子の共演が話題になったが、両名ともに楽曲を提供していた。小泉今日子の演じた春子が若い時期に憧れたアイドルとして、松田聖子が実名で登場した(ポスターやVTRのみ)が、この3名に曲を提供したのは大瀧詠一だけだった。
快盗ルビイ / 小泉今日子 [大瀧詠一 Niagara song book2] より - YouTube
その松田聖子に提供した「風立ちぬ」を、ただ一度だけライブでセルフカバーしている。ナイアガラ・ヘッドフォンコンサートで、後にも先にも一度だけ歌われた大瀧詠一バージョンの「風立ちぬ」は、僕の心に優しく入り込んでくる。
大滝詠一「風立ちぬ」・ナイアガラ・ヘッドフォンコンサート - YouTube
大瀧詠一の曲は古くなることはない。そして、彼の声はいつもとても優しい。
彼の曲を聴くと、それをきっかけに、彼自身の作品以外にも音楽の領域が広がっていく。こういう広がりはあの人が望んだ世界だろう。