文系/理系の二分法を越える良書―『文明崩壊―滅亡と存続の命運を分けるもの』

『銃・病原菌・鉄』で有名なジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊―滅亡と存続の命運を分けるもの』が文庫本になったの読んでみた。文庫といっても、上下で合計1,100ページという大作なので、年末年始のひまつぶしには丁度良い。

内容は、イースター島マヤ文明などがなぜ崩壊したのかを科学的に調査して仮説を提唱するというもの。基本的なストーリーは「共同体の発生→人口増加→食糧・エネルギー消費の増大→環境への負荷→食糧・エネルギー収量の低下→社会の混乱・破綻→崩壊・消滅」というサイクルを描くというもの。要するに、サステイナブルでないものは崩壊せざるを得ないという摂理に則っている。

中でも面白かったのは、日本の江戸時代の考察。木材の需要が増大したにもかかわらず、江戸時代の日本が崩壊に向かわなかった理由を、森林資源の管理が幕府や藩によって的確になされたからであることが示される。これを日本人の知恵とまで一般化できるかどうかは分からないけれども。

こうした古今東西の文明について崩壊したものと存続したものを並べながら、ジャレド・ダイアモンドは今日の世界について警鐘を鳴らす。私たちが短期的な利益を追求するばかりであれば、現在の均衡を保つことは不可能になり、文明が崩壊に向かってしまうと。

知的刺激に富んでいることは間違いない良書であるし、示される結論も現代の「知識人」が弁えているべき教養ではある。しかしながら、結論が常識的な範囲に留まっているかもしれないせいか、個人的には『銃・病原菌・鉄』のような「目から鱗が落ちる」ような衝撃を得るには至らなかった。もしかしたら、読む前の期待が大きかったせいかもしれない。

それにしても、日本では「文系/理系」という二分法がはびこっているが、その二分法では、こうしたジャレド・ダイアモンドのようなアプローチはどちらに属すことになるのだろうか。そんなことを思わされるくらい科学・歴史・文化のフィールドを縦横無尽に駆け巡る良書であると思う。

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)


文明崩壊 下: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

文明崩壊 下: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)