1億円は貯められるか―『投資で一番大切な20の教え』

「1億円は貯められる 月5万円の積立で」と謳っていたプライベートバンクが業務停止命令を受けた。さて、では僕らは1億円まで資産を増やせるのか。そんな上手い話はあるのだろうか。

今年のノーベル経済学賞を受賞したファーマやシラーは、この「上手い話はあるか」という点に対する理論構築・実証研究が評価されたものだ。「上手い話などない」と言ってしまえば、資産を積極的に運用する必要はなくなる。一方、「上手い話はあり得る」ということであれば、どのようにしてという根拠を求めつつ、その道を探究するべきである。

さて、ノーベル賞の解説はここでは省くとして、どのように投資をするかということについて。世の中にたくさんの書物が出ているが、今回は、オークツリー・キャピタルの会長であるハワード・マークスの書いた『投資で一番大切な20の教え』を読んだ。

投資で成功するには、理論と現実の歪みを見つけ、その歪みが正されるのに賭けるというのが一つの方法だ。先日読んだ『世紀の空売り』は、まさに典型的な事例だった。本書『投資で一番大切な20の教え』は具体的な事例ではなく、一般化された法則を紹介している。たとえば、「リスクを理解する」とか「心理的要因の悪影響をかわす」など。

前者の「リスクを理解する」というのは、ファーマ教授お得意のモデルを用いたファクター分析に通じるし、後者の「心理的要因の悪影響をかわす」の方は、シラー教授が持ち出している「人間は常に合理的に行動するとは限らない」という行動経済学の核心を踏まえたものである。

また、「サイクルに注意を向ける」「逆張りをする」などの項目は、ハイイールド債や不良債権への投資を得意とするオークツリーらしいところで、要するに「他人と同じことをしていては儲からない」ということを言いたいのだろう。そりゃそうだ。

さて、では、月5万円の積立で1億円を貯められるかということになると、複利計算で毎年20%以上のリターンを挙げ続けなくてはならない。ということで、これは相当に優秀な資金運用者でなくてはならない。そして、それだけのハイリターンを挙げるには、当然ハイリスクを取らねばならず、「継続して」という条件との両立は相当に難しいだろう。悪魔の証明になるので完全否定はできないが、件のプライベートバンクがそのような資金運用者を抱えているかどうかは極めて疑わしい。怪しげなところにお金を託す前に、本書のような書物で「上手い話」のポイントを整理しておくのは有益だろうと思う。

投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識

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