良作ではあるが―『スター・トレック  ネメシス/S.T.X』

劇場版『スター・トレック』マラソンも10作目。エイブラムスのリメイク前としてはこれで最終。

惑星ロミュラスのロミュラン帝国でシンゾンによるクーデターが発生したころ、地球では惑星連邦宇宙艦エンタープライズの副長だったライカーと、カウンセラーのトロイとの結婚式が行われていた。
エンタープライズはトロイの故郷の惑星へ向かう途上でロミュランとの中立地帯近くから発せられる陽電子波)を感知、データのプロトタイプで兄とも言えるアンドロイド「B-4(ビーフォー)」を発見する。B-4は修理されデータの記憶を与えられるが、うまく記憶できない。
その直後、エンタープライズにロミュラン帝国との和平交渉の任務が下る。ロミュラスへと到着したピカードはロミュランの新総督シンゾンの驚くべき正体を知る…

劇場版に相応しいスケールの大きさ。そして、異文化との和平交渉という高尚なテーマ。これらは、新スター・トレックシリーズの最後を飾るに相応しい。

プロトタイプのアンドロイドと改良版のアンドロイド。オリジナルの人間とクローン人間。似て非なるもの同士の対比は、「宇宙の中で自分の存在する意味は何か」という問いを投げかける。

データの存在する意味は、映画の終盤で明確に示されるし、B-4の存在する意味も、ある種の希望をもって仄めかされる。

クローン人間にはいつも悲劇が付きまとうが、今回もその宿命から逃れることは難しい。しかし、オリジナルの人間は、クローンの悲劇をも受け止めて、限りある生という制約の中で、役割を果たさねばならない。

ピカードの言動には揺るぎがなく、実に格好いい。人は老いていくものだ。恰好の良い「老い」というものがあるとすれば、ピカードの姿はまさにそれだと思う。というよりも、スター・トレックシリーズのテーマの中心に「老い」が据えられていると思う。

本作は映画としては良作である。が商業的には失敗だったということで、続編はなく、エイブラムス監督によるリメイクにつながることになる。俳優陣は大幅に若返り、スタイリッシュになっているが、スター・トレックシリーズの「老い」は隠蔽され、よくあるアメリカ映画の「若さ万歳!」的な感じになっていることは否めない。それが商業的な成功につながっていることは、ある意味で皮肉なことのように思う。