「傑作」なんていらない―メトロポリタン美術館展@東京都美術館

東京都美術館で開催中の「メトロポリタン美術館展」に足を運んだ。

公式サイト:「メトロポリタン美術館展 大地、海、空4000年の美への旅」の公式サイトです。

メトロポリタン美術館(MET)は広大な敷地に古今東西の膨大な美術品を展示している。訪れるたびに、あまりの広さに目眩がしてくるほど。そのMETから133点の作品が来日。

今回は、年代や地域の異なる作品を「自然」「人々」「動物」といったテーマ毎に分類して展示。博物学的な観賞態度で臨めば、METのコレクションの幅広さの雰囲気を味わうことができる。METに行ったことがあれば、今回のエッセンスからでもあの広い建物を懐かしく思い出すだろう。

美術史的な流れを期待するのではなく、おもちゃ箱的なバラエティを楽しむというのが、MET本家と同様、今回の展覧会の場合、正しい鑑賞態度だと思う。そういう心構えで観賞に臨んだ自分にとっては、実に有意義な時間だった。ただし、テーマ毎に分類するには、少々作品の点数が少なかったように思える。理想を言えば、200点くらいは来て欲しかった。

プロモーションでは、ゴッホの「糸杉」を前面に出している。「糸杉」にはゴッホの力強さが溢れていて傑作であることは疑いようがない。だが、美術史の中での作品の位置付けや、画家の生涯に関する情報が得られるわけではない。間違っても「傑作」を見に行こうなどと期待してはいけない。「西欧近代の傑作絵画ファン」がこの展覧会に行くと、恐らく物足りなさを感じるのではないかと思う。そういう人にとっては、もしかしたらスルーした方が賢明かもしれない。

だが「西欧近代の傑作絵画」というのは、広い芸術の宇宙の中では実は非常に狭い領域に過ぎない。この展覧会を見ると、改めてそのことを実感する。ポスターやチケットで使われている「糸杉」の一枚絵よりも、会場内のショップで販売されている「作品を並べたクリアファイル」の方が、今回の企画展の良さをよく表しているはずだ。

最近の展覧会は、タレントをプロモーションに使ったり、「傑作」を前面に出したりするのが流行だ。だが、こうした流行は、日本人のアートに対する関心がいまだに未成熟であることを見透かされているような気がして、実に残念。必ずしも「傑作」なんていらないのに。