平野啓一郎『ドーン』

2009年のBunkamuraドゥマゴ文学賞という触れ込みに惹かれて、平野啓一郎の書下ろし長編『ドーン』を読んだ。

時代は2036年。近未来。舞台は火星探査船・ドーン。主人公はその乗組員の一人である日本人。彼の周辺の個人的な問題のように見えたものは、アメリカの大統領選挙に影響を与えるほどに広がっていく。

…という話なのだが、SF設定、人物の内面、政治的な陰謀といった全てが、まるでパーツのツギハギのようで全体として大きな流れを生み出すに至っていない。

SFではあるが、センスオブワンダーは皆無。作者にとっては、思考実験の舞台に過ぎないのだろう。

文章も密度は高いが、「味わい」が足りない。無味乾燥、とはまでは言わないまでも、好悪の感覚を引き出すような「色」というものが感じられない。知的で抑制も効いているが、まるで良く出来た解説書を読んでいるようだ。

結末についても、個人的な問題にも一つの「帰結」が用意され、大統領選挙の方にも「結論」がもたらされる。だが、この両者が同時並行的に進んでいくことに、あまり必然性が感じられない。主人公を日本人にしている一方、政治の舞台を米国にしたという「ねじれ」が良くなかったように思う。主人公を米国人にした方が、この部分の「シンクロ」に説得力を持ったのではないだろうか。

用意されたテーマを三題噺的に構成して紡がれた物語ではあるが、600ページを過ぎてクライマックスを迎えても自分としては「面白い」と感じるには至らなかった。

ドーン (100周年書き下ろし)

ドーン (100周年書き下ろし)


ドーン (講談社文庫)

ドーン (講談社文庫)