これが本当の物語―『BLOOD-C The Last Dark』

この映画が見せるのは『BLOOD-C』の本当の物語であり、小夜の本当の姿だ。TV版を下敷きにしつつも、まったく新しい映像、新しい世界。地下鉄・丸の内線の中で起きる怪事件で始まる物語は、映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(2000年)へのオマージュを感じさせながら、見るものを一気に作品世界に引きずり込む。

公式サイト:劇場版『BLOOD-C The Last Dark』2012.6.2解禁!

Production I.Gの映像と音響は、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『イノセンス』にも連なる緊張感に満ちている。張り詰めた闇の中から正体の分からないものが現れる瞬間のスリルは、他の作品では得難いものだ。そして、日本刀を振るいんながらスクリーンを飛び回る小夜のアクションの美しさ。これこそ海外に誇るべきジャパニメーションだと胸を張って言える。タランティーノ監督にも自信をもって勧めたい。

ストーリーもコンパクトにまとまっていながら、『BLOOD-C』らしい「騙しの構造」も内包していて、終盤まで緊張感が持続していて、最後にカタルシスも得られる。良作。青少年保護の名の下に自由を制限する都知事への風刺もあり、これがちょっとしたスパイスになっている。個人的に惜しいと思ったのは、柊真奈役の橋本愛の声がちょっと浮き気味だったこと、そして、重要な場面でCGで描かれる「あるキャラクター」がちょっと滑稽に見えたこと。この2点を除けば完璧な作品だった。塩谷直義監督は実に素晴らしい仕事をしたと思う。

TV版のラストからつながっている話だが、予備知識として必要なのは、主人公である小夜にとって敵の組織のボスである文人が「因縁の宿敵」であるということくらい。そういう意味では「一見さん」にも優しい作品だと思う。この手のアニメ映画には珍しく、館内の男女比率は半々くらい。聞こえてきた会話からすると、友達に連れてこられた「一見さん」もそれなりにいたようだった。