二階堂ふみに釘付け―『指輪をはめたい』

岩田ユキはよく分かってる映画監督だ。キャスティングを見てそう思う。優柔不断な主人公に山田孝之。三股相手として、秀才ツンデレに小西真奈美。明るい肉体派に真木よう子。不器用な不思議系に池脇千鶴。いずれも渋好みだが演技力のしっかりとした個性派の役者を集めている。

では、よい役者が集まれば、よい映画になるかというと、それはまた別の話。まず、あらすじをネタバレのない範囲で。

独身サラリーマン・片山輝彦は、ある日、スケートリンクで転んで頭を打って気を失う。気がつくとそれまでの数時間の記憶をすっかりなくしていた。自分が婚約指輪を持っていること、どうやら3人の女性を相手に三股をかけていたようであること。そんな状況だが、誰に婚約指輪を渡すはずだったのか思い出せない。彼は改めて彼女たちそれぞれとデートをしてみるが、結局3人それぞれの魅力を確認しただけだった…

山田孝之の演じるとぼけた主人公を中心に、個性派の3人の女性がそれぞれ絡み合う。それなりになりきっていてコミカルでもあるのだが、あくまで「キャラ」の域を出ないという感じで、実在する人間の持つ内面を感じさせるにまでは至っていない。どの俳優も別の作品では、うならされるような演技を見たことがあるだけに、「もったいない」と感じてしまった。ある意味で、こういうライトなノリこそが今の日本映画というものなのかもしれないが、「よくわかっている」はずの岩田ユキにはもう少し期待してしまう。

そんな中で、スクリーンに目が釘付けになったのは、スケートリンクを滑走する少女を演じた二階堂ふみ。美しい。あまりに美しい。素材の美しさはもちろんだが、映像としてこの場面こそが、この映画の核心として記憶に残る。かつての宮崎あおい蒼井優のような清楚な空気を伴って(調べたら、去年のヴェネツィア国際映画祭で新人賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞しているのか…)。

かつて岩井俊二監督が『花とアリス』で蒼井優がバレエを踊るシーンをクライマックスに据えて見る者の息を止めたように、岩田ユキ監督は『指輪をはめたい』で二階堂ふみを氷上に舞わせて見る者の心臓を射抜いた。

この映画はこのシーンのためだけにあってもいい、主人公もあの3人の女性から誰を選ぶかじゃなくて、この少女の方に惹かれるのが自然じゃないか、と思っていたら…(以下ネタバレ回避のために省略)。

ということで、ある意味、キャスティングや映像の美しさで「出オチ、ネタバレ」的な面もあるが、岩田ユキという監督のセンスと、二階堂ふみという役者の輝きを確かめることができる作品として評価したい。

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