奈良なう、または一人旅なのに一人じゃない

最初に奈良に行ったのは小学校に上がる前のこと。両親に連れられて奈良公園に行った。鹿せんべいを持っていたら、鹿に囲まれていたというおぼろげな記憶がある。あるいはそういう写真を見せられたり、そういう話を聞かされたりしたので、本当の記憶ではないのかもしれない。

次に奈良に行ったのは、中学校の修学旅行。宿でふざけ過ぎた翌日、寝不足のままであちこちバスで移動したせいか、どこをどう回ったかなんて忘れてしまった。おどけた友達の一人が鹿せんべいを食べていたことを皮切りに甘酸っぱい思い出なら、不思議になことに次々と蘇ってくるのだけれど。

さて三回目の奈良。僕は完全に自分一人で計画を立て、完全に自分だけで行動している。立てた計画通りに移動しようと自分をせかすこともあるし、計画なんて変更してしまえと気分の赴くままにスケジュールを変更することもある。そんなこともみんな含めて一人旅。

小さい子供のいる家族連れが、鹿せんべいを子供に持たせている。ああ、自分もこんな風に連れてこられたんだと理解する。幼いころの自分を。両親の愛情を。

学校の制服を着た男女の集団が鹿に囲まれた女の子をはやす。太い声で何かを叫ぶ男子。甲高い声で笑う女子。そうだった、自分もこんな輪の中に確かにいたのだと思い出す。そしてあの頃の友達はどうしているだろうとふと考える。

年をとるとはこういうことだ。一人でいても一人じゃない。統合できなかった過去を理解したり、記憶の奥底に眠っていた出来事を思い出したり。5歳の僕も14歳の僕もここにいる。一人旅なのに一人じゃないんだ。

…なんてことを考えながら奈良を歩く。いまこの瞬間にこの場所でこんなことを考えているのは僕だけかもしれない。でも、人類が誕生してからいままでの間、地球のどこかでこんなことを考えていたのは、きっと僕だけじゃないだろう。奈良や京都の都ができてから、世の中の栄華や、人のはかなさついて、どれだけ多くの人が思いをめぐらせてきたのだろうか。…なんてことを考える。

と、長い自分語りが終わったところで、今日を振り返ろう。

朝8時前に近鉄奈良へ。
奈良の場合、名所が離れているので、朝早いスタートが大事だ。春日大社で鹿に出会う。

そこから箒で掃除をする巫女さんたちに会う。幸先のよいスタートだ。そこから東大寺奈良国立博物館興福寺へ。
奈良国立博物館では正倉院展の真っ最中だが、平日にもかかわらず入場まで45分待ち。そして館内はものすごい混雑。あとでじっくりと図録を見よう。

興福寺は国宝館が素晴らしい。有名になった阿修羅像だけでなく古い仏像の宝庫。お寺の拝観ではなく、ミュージアム仕立てにしたのが展示としても功を奏していると思う。

バスでならまちのカフェ・カナカナへ。近鉄と奈良バスの乗り放題チケットなのでどんどんバスに乗るべし。古い民家を改装した座敷のカフェにブラジリアンミュージック。ここも超人気店で入場まで30分以上。時間がないのでランチではなく、プリンとコーヒー。レアチーズのように濃厚なプリンにたっぷりのカラメルがコーヒーとよく合う。


バスで法隆寺に移動。一時間に一本しかないので、時間をうまく合わせることが大事。法隆寺は世界遺産第一号だけあって、本当に古いものをしっかりと守っているという感じだった。

再びバスで西の京に向かう。薬師寺と唐招提寺へ。これも一時間に一本のバスなので、きちんと調べておかないと大変なことになる。両方の寺は近接しているが、どちらかというと派手な薬師寺よりも、渋い唐招提寺の魅力に惹かれた。

そこから近鉄を乗りついで京都へ。

今度は京都国立博物館へ。今日のオモテのテーマは「奈良」だが、ウラのテーマは「国立博物館制覇」なのだ。金曜の夜は京都国立博物館は20時まで開館しているでそれを狙う。「細川家の至宝」ってこれある意味で正倉院展よりも見所十分だ。空いているし。

ということで、最後は祇園のカフェ・カトレヤでカレーセットを夕飯にして締める。今日はじめてお米を食べた。歩き回っていたけれどなかなか時間が取れなかった。


さて、明日は再び京都巡りだ。