イスカンダルの見た夢ー『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝 』

『ハムナプトラ2』でエジプトを制したリック・オコーネル一行。今回の舞台は、オリエントの中のオリエント、中国は上海。東へ東へ。東方遠征。

マケドニア王アレクサンドロス3世、またの名をアレキサンダー大王、またの名をイスカンダル、またの名を征服王。かのアレクサンダーにとってさえも見果てぬ夢となったアジア大国の制圧を目指すのだ! さあ、王の軍勢! いざ、神威の車輪!! AAALaLaLaLaLaLaie!!! ・・・って今回も相手は死者だけど。以下ネタバレ。

前回のエントリーで『ハムナプトラ2』のマーケティングが巧妙だと書いた。それは子供を登場人物に加えたことであったり、宿敵を蘇らせたことであったり、新たな敵との三すくみの構図を示したことだったり。では3ではどうか。今回もこの作品のマーケティングは巧みだ。それは「オリエント」を本丸にしたという点にある。

主人公の属する英米の世界にとっては、前作までのエジプトも「中東」であり、オリエントの一角であった。だが、今作の場合は「中国の皇帝」というオリエンタリズムのど真ん中の敵と戦う構図。東洋の神秘という点や、皇帝のカリスマ性という点で、敵としてもさらにパワーアップして見せることに成功している。

これを、おなじみの欧米の東洋へのステレオタイプと見るか、市場として無視できなくなったアジアの取り込みと見るか。個人的には後者の方の要因が大きいと思う。中国の皇帝役としてジェット・リーというスターを登用し、彼の側のドラマを加えたことで、敵といえども単なる「やられ役」以上の魅力を見せているからだ。日本が舞台なら渡辺謙が演じていただろう。

こうしたアジアを舞台に取り込む動きは、この作品に限ったものではない。同時並行で視聴してきた『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも、3でシンガポールが舞台の前面に現れ、シンガポールの海賊のボスなんかも登場していた。単なる偶然ではない。時代はアジアなのだ。映画業界にとっても。それゆえのオリエント・マーケティングなのだろうと思う。


ということで、本作では西洋対東洋という構図の中で、生者と死者とが文字通り生死をかけた戦いを繰り広げる。「なんだ、ハムナプトラは関係ないじゃん」というツッコミはその通り。本シリーズの原題は、最初から「ハムナプトラ」ではなくて「マミー(ミイラ)」なのだから。

主人公が史上最悪の危険(当社比)にさらされたり、現地で人間ならざる第三の勢力が登場して加勢したり、超自然の神秘的なパワーが勝負を決したりと、古今東西の冒険大作のエッセンスがこれでもかというくらに取り入れられている。まさに集大成的な作り。上海の風景もエキゾチックで美しい。と同じ東洋の日本人が言うのも変だけど。

成長した息子も、ヒロインの兄も、シリーズ恒例、お約束通りの役回りを演じてくれる。期待を裏切らないキャラクター。これで2時間の映画にまとめているのだから、やっぱり娯楽作品としてこのシリーズは侮ってはいけないと思う。激安のイギリス版BDBOX買って一年間放置していた僕が言ってもまるで説得力ないけど。

最後は予想通り、西洋が東洋を制して終わる。王道エンディング。強い敵は倒した。だが、これで全部かどうかは分からない。冒険はまだ続くかもしれないし、そうではないかもしれない。こういう形でいつでもシリーズを続けることができる余地を残しておくことは、商業作品にとって重要だ。興業収入記録を更新してきた『ハリーポッター』はもう続きを作れないのだから。

さて、アジアを制した『ハムナプトラ』に続きがあるとすれば、彼らはどこに向かうのだろう。東洋の果ての日本? いや日本は素通りだろう。マーケティング巧者の『ハムナプトラ』であればそういう判断になるだろう。残念ながら渡辺謙の出る幕はなさそうだ。

では、彼らはどこに向かうのかというと、やっぱり南米になるのではないか。そこで南米の神秘のミイラとご対面!ということになると、これはまるっきり『インディ・ジョーンズ4』と同じコンセプトになってしまう。ということで、次回作はちょっとどうなるのか悩ましいかもしれない。

蛇足。ヒロインのエヴリン役が、本作では、レイチェル・ワイズからマリア・ベロに代わっていた。ヒロインに必要とされる華やかさも持ちつつ、エヴリンの学究的なイメージも持っていた女優だったのに。クリストファー・ノーラン版『バットマン』のレイチェルが、ケイティ・ホームズからマギー・ジレンホールに代わったのに匹敵するくらいがっかり。『パイレーツ・オブ・カリビアン』のヒロインが、キーラ・ナイトレイからペネロペ・クルスに代わったのに匹敵するくらい・・・ってあれはキャストチェンジではないな。