『昭和天皇―「理性の君主」の孤独』

今年はなぜか昭和天皇本がラッシュだ。伊藤之雄の『昭和天皇伝』を探しに書店に行ったが在庫がなく、今年刊行されて評判のよい本書を買うことにした。

昭和天皇―「理性の君主」の孤独 (中公新書)

昭和天皇―「理性の君主」の孤独 (中公新書)

古川隆久の手による本書は、大正から昭和の激動の歴史の中で、昭和天皇が何を考え、どう行動したのかを、様々な資料から丹念に浮かび上がらせている。

昭和天皇に関してはさまざまな主義主張と結びついて描かれることが多い中で、本書のように客観的で中立な記載がされているのはかえって面白い。著者の基本的な立場はサブタイトルの「理性の君主の孤独」に凝縮されていると言ってよい。若くして欧州に渡航した際に英国王室のあり方をまざまざと学んだ昭和天皇は、立憲君主的な信条を持つに至った。だが、戦争が深刻化する中で、周辺に彼の理解者は少なくなり、孤独を深めていったと。

読みながら、内閣が支持を失うことを繰り返す中、なし崩し的に日中戦争・太平洋戦争に突入して破滅に向かう様に、今日の日本の姿を重ならせてしまった。敗戦・新憲法・経済成長を経て、当時に比べると我々の民度は本当に高まったのだろうかと胸に手を当てて考えたくなった。

本書は、つねに問題となる「戦争責任論」についても公平にかつ冷静に記載されていると思う。もしかすると、読む人の立場によっては「追及が甘い」というように感じるかもしれないが、それは本書がそのような立場を越えて書かれたからだろう。

400ページを超えるボリュームで、値段も1,000円(税別)と相応だが、払ったお金と時間に相当する対価の得られる良書だと思う。