阿部サダヲの好演が虚しい―『なくもんか』

『なくもんか』を観た。

なくもんか [Blu-ray]

なくもんか [Blu-ray]

舞妓Haaaan!!!』と同様、監督・水田伸生、脚本・宮藤官九郎、主演・阿部サダヲ。だが、阿部サダヲの渾身の演技も虚しく、どうしようもない失敗作になってしまっていた。

前半の小気味良いネタは良かった。幾分か小劇場っぽいテイストもあり、スクリーンで見るにはちょっとつらい雰囲気もあったが、阿部サダヲの力量でなんとか見せてしまった。だが、そんな彼の個人技に寄りかかって、映画が成立するはずはない。

後半、タイトルからして「泣かせる」話になっていることを期待している観客に対して、クライマックスの場面の肩透かしはどういうことか。うすら寒い雰囲気の祐介(瑛太)とオカマキャラの祐太(阿部サダヲ)による急造コンビの漫才は、実にうすら寒く、これが意図的なものなのか、なんらかの理由で失敗しているのか分かりかねた。これで観客が感動すると思っているのであれば、監督の水田伸生は映画を馬鹿にしているといわざるを得ない。

悪いのは監督だけではない。真の敗因は、宮藤官九郎だろう。なぜ練った脚本を書かせなかったのか。エピソード間の連携が弱く、伏線の張りも回収も十分でない。この「肩透かし」が「味」だなんて思っているとしたら、なんとひとりよがりなことか。「投げっぱなし」。『エヴァンゲリオン』のTV版の最終回もここまでひどくはなかった。誰もダメ出しができなかったのだろうか。できなかったのだろうな、きっと。

ひたすら阿部サダヲが孤軍奮闘しているのが痛々しい。相方の瑛太も飄々としているが、作り手は彼の思わぬ一面を引き出すには至っていない。俳優は脚本を超えられない。悪い脚本からは、どんな俳優が頑張っても、悪い作品しか生まれない。

通常なら評価に値しない映画の感想はエントリしないのだが、今回はあまりにひどいので自分にとっての備忘録としてエントリしておく。自分はどちらかという大人計画びいきなのだが、それでもこの作品を寛容な目で許す気になれない。いやむしろ、大人計画のイメージに安易に便乗した嫌な匂いを感じる。TV的なつまみ食いの匂いというか。ということで、監督・水田伸生、脚本・宮藤官九郎の組み合わせには今後も気をつけよう。